クソサブカル野郎、盆地に死す
モノローグ
1 収監
「ご入学おめでとうございます!」
形式だけの祝いの言葉が飛び交う中、クソサブカル野郎が、この大学に入学いたしました!!!!!!!
趣味は音楽、映画、文学、アニメ、その他もろもろ。多岐にわたるジャンルを網羅しております。ですが生まれは辺境、育ちも辺境、これから4年過ごすところも辺境。サブカルのメインストリームに触れたこともないこのわたくしが、サブカルの巣窟であろう大学に入学させていただきます。ああ、わくわくする。どんなサブカルクソ野郎、どうしようもないクソ野郎がいるんでしょうか。楽しみで仕方がありません。そうそう、私の名前は岡田と申します。
まず、初めの楽しみはサークル勧誘でしょう。どんなニッチな同好会があるのか楽しみだ。まぁ事前に調べているから、驚きは少ないだろうけれど。ひとしきり勧誘の波にもまれて、手元に集まったビラをずらーっと並べてみました。
「剣道部」。こういう部活は、初心者に対して優しくない場合が多い。あとスポーツはつまらないからやりません。このビラはゴミになります。
「トライアスロン部」。トライアスロンなんて、やりたいわけがない。泳いで、ちゃりこいで、走るなんて地獄、この四年間使っても楽しみを見いだせる気がしない。水泳は中学までやっていたが、飽きてやめた。もう水泳は飽きているから、やる意味がない。あとスポーツは大学でやるもんじゃない。
「草野球サークル」。草野球というのが気に食わない。なんで草に甘んじる。別に部にしたっていいじゃないか。本気でやりたくない、趣味でやりたい、女の子と遊びたいって意志が透けて見える。あとビラに書いているマネージャー募集が気に食わない。マネージャーはマネージする人だろ。勝手に雑用をさせるな。お前らが得られる経験と、マネージャーが得られる経験に差がありすぎる。そしてマネージャー側も安易にマネージャーになるなよ。
「よさこい」。ちんぽサークルだ!!!!!これは興奮しますね!!!!ちゃんと存在したんだ!!!ちんぽサークルだ!!!!いかにも文脈のないセックスをしていそう。経験として入部して、はくがいされるのもありだなとおもった。あと、文化の皮をかぶっているふりもしていないのが、潔いですね!!!!!!
「軽音」。私が期待しているサークルです。どんな音楽を聴いている人たちがいるのでしょうか。私が好きな人たちを、私以上に好きな人がたくさんいたら幸せです。
などのビラが集まった。スポーツはクソなので興味がありません!すみませんね。スポーツを除外したそのビラの中で、私が気になったのは、「軽音
」、「ゲーム同好会」、「映画研」の三つだ。理系の大学だから、文化系のサークルが少ないことはわかっていたが、やはり少なくて落胆。趣味の合う人がたくさんいたら作るか~~~。まぁ、サークルに入らなくたって趣味の合う人はいるだろうから、気楽にいこう。
あとは、なんとなーく入学式で隣になった人と軽く仲良くなったりしたりして、対して面白みのない入学式を過ごした。だが、まだ見ぬ同好の氏の存在に胸を高ぶらせていたのだ。
まぁまぁ、なんだか文化人面をしている彼の意志に反して、岡田が入学した大学は、少々皆さんの想像する大学とは勝手が違かったのです。まず、立地。映画館は一番近いところで一時間。美術館、動物園、水族館なんてありゃしない。図書館はかっこだけ近代的で、蔵書数は雀の涙。観光地という特色だけで、文化を保っているようなそんな土地でございました。ですが、岡田はこの町より田舎の出身なもんで、この環境にはじめは満足しているのです。はじめは。なんなら、この環境こそがサブカルだと、勘違いし始めてしまうわけです。
そして決定的なことが一つ。この大学には、いわゆるサブカルオタクが一匹たりとも生息していなかったのです。ヒットチャートをつまみに、流行りのアニメを見て、ソシャゲにいそしむ。そんな彼らはたくさんいるのに。私と同じようにこじらせた同士は、都会にしかいなかったのです。抑圧された環境なのに、みんな満足していたのです。