未来視能力の事例 02
さて、株式会社 刀の森岡氏のすごさを、事例として伝えてみよう企画。
第二弾。
前回、彼がUSJにアサインされてからの最初の取り組みと、成功の事例をまとめた。
今回は、その後氏が行った戦略の中でも最も評価された「第二の矢」について、まとめて見ようと思う。
前回、アサイン後に訪れた天災。
そして、そこから彼が取り組んだ戦略をまとめた。
今回はその翌年、2011年の森岡氏のチャレンジ。
そして、戦略を紐解いていこうと思う。
まずは整理
森岡氏のゴール設定は、2014年のハリー・ポッターのアトラクションを興行として成功させる事である。
そのためにかかる費用は400億。
そして、その400億を捻出するために、その時点で計画が確定とされているプロジェクト以外の、新規企画に関しては極力出資を圧縮したい。
という事が、この年から続く3年間の戦略だ。
2年目の戦略
目覚ましい大型予算投資ができない。むしろ支出は極力圧縮したいと考える今期。彼はテーマパークの1ヶ月単位の利用水位を徹底的に調べた。
そこから出てきたデータの中で彼は以下の部分に注目をする。
8月の大型連休後〜12月のクリスマスシーズンまでの
9月〜11月はテーマパークの利用率が極端に下がる。
理由は大きく二つだ。
8月以降は年末年始まで、大型連休がなくなり、学生層(カップル層)、ファミリー層共に利用の機会創出が難しくなる。
9月〜11月の時期に目玉イベントと呼べる大型のキャンペーンが存在しない。
お盆休みなら花火
クリスマスならイルミネーション
春休みなら桜
といった、日本人に当たり前に認識されているイベントがこの時期は存在しないのだ。そして長期連休という社会システムからも除外されるこの3ヶ月間はテーマパークとして、かなり難しい時期だと言える。
しかし、氏はあえてここにメスを入れる決断をした。
秋をマーケティングする
氏が最初に行った分析は、USJが映画を追体験、あるいは実体験できるテーマパークであることから、映画の興行を徹底的に分析した。すると、映画業界には、ある法則が「秋」にあることに気づく。
秋は恋愛もの映画が増える
この言葉を聞いて、なるほど。と思った方も多いのではないだろうか?
確かにお盆の大型連休を終え、秋口へと向かうとTV-CMの映画告知も「恋愛要素」が強く押し出された映画が多く出てくるような気がしないだろうか?
これは、映画業界では鉄板のマーケティング戦略とされ、「秋は女性が寂しくなる季節」といった設定が定説として存在するらしい。
はしゃいだ夏が終わり、日常が戻り、クリスマスはまだ先。
夏を思い出すとなんとなく寂しくなり、クリスマスを夢見るにはまだ少し先だ。そんな心理が女性にって、恋愛を追体験したくなるフェーズへと誘うらしい。という心理行動が経済に反映されるようだ。
ここから着想を経て、氏の企画がデザインされる。
ターゲットは独身女性
そして寂しさを紛らわせるイベント
できれば友達で集まってきて欲しい
最後にお金はかけたくない
簡単に整理すると、戦略の根底にあるポイントは上記のようなものとなる。
そしてここから導き出された企画が「ハロウィーン・ホラー・ナイト」だ。
当時、ハロウィーンが日本に浸透しつつあり、日本らしい独特の外国文化解釈から「仮装して練り歩くコト」がハロウィーンであると根付きつつあったタイミングで、氏は「来場者に仮装して来てもらう」という企画を立ち上げた。
通常のイベンターの思考からすれば、イベント企画は主催者側が用意し、演出し、最高のエンターテイメントをお届けする。といったバイアスがかかるが彼はそれを完全に逆張りして、イベントの開催できるパーク(箱)は用意するから、あとは「みんなで仮装して怖がらせながら楽しんでよ」という、デザインにしたのだ。
結果、仮装を楽しむハロウィーンコスプレーヤーたちは、仮装を堂々とパブリックにお披露目できる。そしてコスプレしたキャラクターになりきって他の人を驚かして良い。というコスプレを行う人間の中に潜む心理的欲求を満たした。要するに「なりきれる」ワケだ。
仕事ではなく、趣味で自主的に人を怖がらせたいと考えている人々が集まるのだ。当然その品質は「ビジネスの枠」を超えたものが生まれる。
すると単純に楽しみたい、そして叫んでストレスを発散したい。寂しさをはしゃぐことで忘れたいという、女性グループたちが押し寄せるようになる。
結果、見たい人もやりたい人も集まるという新しいイベントを作り上げることに成功したわけだ。
こうして、イベンター側の企画で必要となる盛大なパレード費用も、イベントを成立させるための人員増強も行わず、客が客を楽しませる。という状態を最低限のコストで実現させたのだ。
さらにいえば、ナイター営業時はちょっと薄暗くすればよりホラー度が増すと考え、パークの照度を落とし電気代まで削減してしまうという錬金術まで成し得たことは、市場戦略を考える多くのマーケティングコンサルタントと呼ばれる人間からしてみたら「賞賛」しかない。という結果である。
さらに平等ではなく公平を演出
ゾンビのエジキ という商品の販売。
この手のイベントで発生する不満の一つに「驚かせることを楽しみに行ったのにあんまり驚けなかった。」もしくは「ゾンビがあんまり襲ってこなかった」があると感がられる。
これを払拭する装置が、この「ゾンビのエジキ」だ。
このネックレスを装着し、ボタンを押すと点灯する。闇夜に自分だけが発光するのだ。
すると、ゾンビたちはその発光体目掛けて襲いかかるという寸法だ。
この商品を購入することで、来場者は「襲われやすくなる権利」を獲得することができるのだ。
この発想の秀逸なところは、来場者が平等に襲われる権利を獲得するのではなく、装置を手にしたものはエンカウント率を上げることができるという不満を公平に払拭できる装置であるという点だ。
結果、よりイベントを楽しみたい来場者は装置を購入し、USJとしては商品開発にかかった投資金額を差し引いてもあまりあるグッズ収益すら獲得する。
さらに、この戦略は「毎年新デザインを提供する」ことでリピーターからさらなる投資を生み出すことにも成功するといった具合で、
イベントのコスト圧縮
イベント興行の収益化に成功
観客動員の増加を実現
物販の売り上げも上昇
という、成功を積み上げた。
実際に数字にもその功績は刻まれており、氏が就任した2010年の来場者数が750万人であったことに対し、2011年の来場者数は850万人と上昇した。
同年の3月に震災があったのにも関わらずだ。
こうして、氏のマーケティング戦略は成功と共に、業界に衝撃と賞賛を生み出すきっかけとなった。