馬庭くんの「ネツノハナ」
7回、ピンチに伝令の選手が仲間のもとに走る。
彼は、マウンドに集まる仲間に誇らしげな笑顔で駆け寄り
すぐさま振り返り、大応援団のいるアルプススタンドを指さす。
僕たちは、一人じゃない。。
9回、6点ビハインド。
出塁した走者、1死からの盗塁。
セオリーでは、ありえない。
それは
「最後まで、自分らしく」という覚悟。
ベンチでは、馬庭くんはもちろん、監督の目もうるみ始めている。
終わるかもしれない。
このまま終わるのかもしれない。
ここで打っても勝てないかもしれない。
そんなことはわかっている。
でも、確実に今は続いている。
そう、この「とき」は終わっていない。
目の前にあるのは、終わろうとする時間の一瞬一瞬。
数々の奇跡を起こし、居並ぶ強豪に競り勝ってきた大社高校。
彼らが刻んだものは、言葉を超え、「とき」を超える。
どの試合の、どのタイミングなのか、
大社高校の馬庭くんの下唇には、小さな「ネツノハナ」があった。
敗れた瞬間、彼はそのネツノハナを愛おしそうに指で確かめる。
「ヨクガンバッタナ」
小さな赤い花は、
彼にそうささやいている。