第61話 エイトウーマン写真展2023③〜藤井蘭々は涙するバービー人形〜
3日目
復讐劇〜浮気した彼氏を木刀で半殺し〜
むちゃくちゃ面白い話を聞いた。来場してくださった某メーカーの女性広報が、過去の彼氏とのいざこざ話をしてくれた。
彼女には4年間付き合ってた結婚目前の彼氏がいた。
ある日、彼女が予定より早く家に帰ると、ドアにチェーンがかかっていた。玄関には彼の靴と女の靴がある。
"あれは、私の靴じゃないよな・・・"
彼女は一瞬で状況を察知した。
”同棲している彼氏が家に女を連れ込んだ!”
そして急いで駐車場に置いてある木刀を取りに行った。
「待ってください!なんで木刀あるんですか!?」
私は話の途中だが反射的にツッコんだ。「私、剣道してるのよ」という回答が返ってくるのかと予想したが、違った。
「もしもの時のために」
彼女は言った。
”もしもの時のためにって選んだのが木刀!?そんなアホな!”
だが木刀以外に何がいいかと考えると、木刀がベストなような気もしてくる。
「でももしもの時のために木刀を用意してても、駐車場に置いてちゃだめだね。あの時私が木刀を取りに行ってる間に、不倫相手の女には逃げられたのよ!」
そう笑って、彼女は話を続けた。
木刀を持って部屋に戻ると彼は悠々とシャワーを浴びていた。彼女は水道の元栓を閉めた。そして風呂場の彼はこう言った。
「水、出してもらえますか・・・?」
一体彼はどんな心境でこの言葉を言ったのだろう。「水、出してもらえますか」という短い言葉からは「もう逃れられない」と腹を括った彼の覚悟も感じられ・・・なくもない。
彼女は風呂から出てきた彼を、自分の目の前に土下座させる。そしてまず横からゴルフのスウィングのように振り上げ、1発目をお見舞いした。
"1発目を脳天に振り下ろさないところが優しさだな"
私は思った。
そして2発目、3発目・・・。彼は床を転がり、ボコボコの血まみれ。
「女はどうしても力では男に勝てないんだよ。だから仕返しを物理的に止められないように土下座させたの」
「彼女と住んでる家に他の女を連れ込むのだけは、許せなかった」
当時のことを思い出したのだろう。そう話す彼女の目は燃えていた。
「合計何発くらいお見舞いしたんですか!?」
私はもっともっと詳細を知りたい好奇心にたまらなくなり、つい話を中断した。
「15発くらい」
静かに即答した彼女の様子に開いた口が塞がらない。
「でもどのくらいまでやると相手が死ぬとか大体わかるから」
"そういう問題なんか・・・?"
私は呆気にとられたまま、話は続いていった。
最終的に彼は血だらけ半殺し状態。彼女は彼からお金をしっかりもらい、綺麗さっぱり縁を切ったらしい。
「最後は気迫の強い方が勝つからね」
そうかっこよく締めくくった彼女は、かつて地元ナンバーワンのヤンキーだったそうだ。
”なんて痛快な復讐劇・・・!!”
私は拍手喝采。大笑いした。エナジードリンクを3本一気飲みした時のような高揚感!
そしてふと思い出した。私も過去に復讐したい男がいたが、彼女のように直接その男をボコボコにはできなかった。
当時私は大学2年生。深夜2時、その男の家に行って・・・。
これはまた別の機会に話そう。
写真を観て涙、そして一礼する藤井蘭々
この日の在廊女優は『藤井蘭々さん』。去年の写真展ではほんの少ししか会えなかったので、彼女に会えるのを密かに楽しみにしていた。
エイトウーマンの中で唯一の金髪、華やかな容姿をしている彼女は、スタイルも含めてバービー人形だった。そんな蘭々さんは西田さんと写真を見て回っている時、泣いていた。ただ静かに涙をつたわせていた。
その姿は去年の八蜜凛さんと重なった。彼女も写真展で涙を流し、最後は写真たちにお辞儀をして控室に戻っていった。
”凛ちゃん、元気かな・・・”
そう思っていながら蘭々さんを見ていると、彼女は展示している写真たちに一礼をして控室に戻っていった。
”あれ?凛ちゃんかな・・・”
容姿が華やかな彼女は、賑やかな性格なのかと勝手にイメージしていたが、それとは全く違った。会場の写真を見ている時もずっと自信がなさそうで、自分の写真を直視できないといった様子だった。
それでも西田さんに「この蘭々ちゃんすごく綺麗だよね」と言われながら写真を観て回る彼女は楽しそうだった。
「蘭々ちゃん、楽しそうでよかった」
彼女が控室に戻った後、西田さんは私の横でそう呟いた。
「蘭々さんと凛ちゃん、なんだか似てますね」
「うん。きっと育った環境とかが似てるのかもしれないね。人ってそれぞれ背負ってるものがあるからね」
そう言って西田さんはエイトウーマンの集合写真を眺めていた。控室からは蘭々さんが楽しそうに喋っている声が聞こえている。
美乃すずめさんの弟が写真展スタッフに!
この日の<今日を振り返る会>には美乃すずめさんの弟『健太さん』が来てくれた。
今年の写真展では、健太さんがスタッフとして数日間働いてくれる。今日はその初日だった。
「僕、もっともっと周りを見ないといけないって痛感しました」
健太さんは居酒屋の席につくなりそう言った。
「山中さん(エイトマンのマネージャー)の接客とかを真似してやろうとしましたが、なかなか上手くいかなくて。山中さんがいかに周りを見て、次のこと次のことを考えながら動いているのがよくわかりました。僕にはまだそれができなかった。
『写真展では自分ができることを探してやってみて』って事前に言われてました。でも僕は何ができるか想像つかなかったんで、とりあえず女優さんの名前とかを覚えたりしてきてたんです。でも実際会場に立ってみるとテンパってしまって、覚えたことも全て飛んでしまいました。次はもっと上手くやります」
そう全面的に反省を示した健太さんだが、受付から見えた彼の動きはなかなか気持ちのいいものだった。
彼は何度も何度も山中さんに質問や相談をしに行っていた。きっと必死に『自分ができること』を考えて、その答え合わせをするように山中さんに聞いていたのだろう。
その姿を見ていて心から応援したくなった。彼は真っ直ぐで一生懸命だった。
2週間の写真展が終わった後に、彼はどのようになっているだろうか。彼にとって”ご褒美”と思えるものをしっかり掴み取ってほしいと思う。
「今回、この写真展で働く機会をくれてありがとうございます。初日で既にたくさんのことを勉強した気がします。機会をくれた社長や山中さんに何か少しでも返せるように頑張ります」
ぜひお姉さんのすずめさんのためにも頑張ってほしい。写真展で働くチャンスをくれたのはすずめさんであり、彼の写真展での頑張りを一番に喜ぶのは、おそらくすずめさんだと思うから。
彼女が健太さんに渡した『チャンス』というバトンをしっかり握りしめてゴールまで駆け抜けてくれ!私も一緒に頑張るわな!
「健太さん、16番のMサイズと36番のLの写真が売り切れたから、写真の横に『SOLD OUT』のシール貼ってきて」
この日の営業時間中、私は健太さんに頼んだ。その2つの写真は両方とも『美乃すずめさん』の写真だった。彼はどう思ったかわからないが、この偶然を目の当たりにできたことは、私にとって今日の”ご褒美”だった。