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第127話 京都・海宝寺イベントの裏側(後編)〜ガガガSP『祭りの準備』は歌われるのか!?


 2024年11月3日、京都の海宝寺で開催されたイベント『堂』。そのトリはガガガSP・コザック前田さん(以下、前田さん)による弾き語りライブ。
「前田さんに『祭りの準備』を歌ってもらおう。海宝寺のイベントのテーマソングにしよう」
 海宝寺の住職・荒木さん、お笑い芸人ヤング・寺田さん、そしてエイトマン社長が、そこまで盛り上がっていたのに、前田さんのセットリストに『祭りの準備』はなかった。
「前田さんに『祭りの準備』をお願いをしに行った時、むっちゃ緊張したんです」
 荒木さんは、前田さんに依頼をしに行った時のことを、そう言っていた。おそらく緊張で声が小さくなり、前田さんに『祭りの準備』を歌ってほしい旨が、はっきり伝わっていなかったのだろう。

 果たして『祭りの準備』は演奏されるのだろうか———

ステージ立つコザック前田

コザック前田はギターを預けた

「このイベントで『祭りの準備』がどうも重要な曲らしくて、今日、会場に来てから3、4人に『祭りに準備するんですか?』って聞かれたんです」
 3曲ほど歌った後、前田さんはそう話し始めた。
「正直、ガガガSPの中で、そんなに人気のある曲ではないんです。でも荒木さんをはじめ、多くの方がこの曲を特別に思ってくださっているようなので、今日はやる予定じゃなかったんですけど、やろうと思います!」
 会場が沸き立つ。
 ああ、良かった・・・・・・。
 背中の緊張が解けていく。私の前に立っていた社長は、サッとステージの正面に移動し、スマホを掲げ、動画を回し始めた。前田さんはステージ袖に控えていた人に、持っていたギターを預ける。
「急にやることになったので、僕、その曲のギターが弾けないんです。なので今日の昼間、別のところで一緒に演奏をしてくれた、ミナトマチよねだ君に、ギターをお願いします」
 前田さんはマイクを外し、上半身を少し前にかがめる。そうそう。これがガガガSPのコザック前田スタイルだ。
「祭りというのはその中心にいる人物が、一番大変なんです。僕たち演者は、それを分かった上でイベントに出るべきだと思っています。ぜひ来年からもこの祭りを続けてほしい、その願いを込めて、歌わせてもらいます。よろしくお願いします!」
 みんなの手拍子の中、『祭りの準備』が始まった。

『祭りの準備』が始まった!

祭りの準備が始まり
君のことが恋しくなり
涙ながらに故郷を思ってみれば
君が悲しくて、僕も悲しくて
祭りの準備だけが君に会える時間で———

ガガガSP『祭りの準備』

「この祭りを皆さん、楽しめてますかー!」
 いえーい!
「そして、特に、この祭りの中心、荒木さん。2日間楽しめましたかー!」
「いえーーい!」
 会場の後ろから荒木さんの大きな声が聞こえた。両手を上げ、右手には警策を持っている。
「また来年からもこの祭りができるように、皆さん、協力してください。海宝寺をよろしくお願いしますー!」

———祭りの準備が始まり
君のことが恋しくなり
涙ながらに故郷を思ってみれば
君が悲しくて、僕も悲しくて
祭りなんか本当は来なくて良いのに
一生、祭りの準備でいいのに。

ガガガSP『祭りの準備』

祭りは中心の人間が一番大変

「前田さんが荒木さんに『楽しんでますかー!』て言ったの、むっちゃ嬉しかった。だって祭りの中心にいる人間が一番しんどいもん。でもそのことはあんまり気付かれへんやん。荒木さん、救われたんちゃうかな」
 イベントが終わった帰り。車の中で社長が言った。
「前田さん、自分が音楽フェスを主催していたから、ああ言ったんでしょうね。あの人自身も、主催者が一番大変だってことを知ってるから」
 梁井さんが言う。
 ガガガSPが主催する音楽フェス『長田大行進曲』のことだ。
 2010年、私はそのフェスで初めてガガガSPの生演奏を聴いた。あの頃は、前田さんがどんな思いでフェスを主催していたかなんて、知る由もない。客として無邪気に盛り上がって、人の波にもみくちゃになり、靴を片方なくして帰った。ただただ楽しい思い出をもらっただけ。
 だが今は違う。私もエイトウーマンの写真展スタッフなどをやって、エイトマンという祭りの裏側を少しだけ見てきた。主催者の苦しみを完全に理解することはできないが、ただの客でいたあの頃よりも、少しだけ、祭りを作る側の苦労を想像できるようになったと思う。

最後の集合写真

「これをあと10年、やり続けなあかんな。毎年、前田さんに『祭りの準備』を歌ってもらうねん。そしたらみんなも、『祭りの準備』を聴いただけで海宝寺が浮かぶようになるから。いつか前田さんが『この歌は人気ないけど、海宝寺のテーマソングやからね』って言ってくれたら最高やね」
 ———やり続けなあかんな。
 社長は自分自身に言い聞かせているようだった。
 18年前にエイトマンを立ち上げ、2021年に自事務所の女優8人で『8woman写真展』を開催した。そして2022年、2023年と続け、今年2024年は『4/8woman写真展』を開催する。(文末リンク参照)
 海宝寺のイベントも、エイトマンの写真展も、やり続けるほど認知度が上がり、規模も大きくなる。そしてより多くの人間を巻き込み、準備も大変になってくる。祭りを終えた次の日にはもう、来年の祭りのことを考えなければならない。まさに産みの苦しみ。無限列車だ。
 やり続けることが重要。でもそれが一番しんどいこと。
 それをよりリアルにイメージできた気がした。

「やっぱり卒業しないよ」に救われた

「最後、なんであんなに気持ちが入ってたん?」
 運転席の社長が私に聞いた。
 前田さんが最後に歌った曲『卒業』。そこで私はしゃくるほど泣いていた。
「あれは、昔の思い出とかも入ってきて・・・・・・」
 説明しようとしたが、うまくできなかった。自分の中でもうまく整理できていない、というか、話すのは気恥ずかしかったのだ———
 
 ライブの終盤、前田さんはこう語り始めた。
「もっと有名になりたい、売れたい、あいつらよりyoutubeの再生回数を増やしたい。そんなことばかり考えてた時もあったんです。でもある時から、自分の半径5メートル以内の生活を楽しくしていこう。それが一番重要じゃないかと思うようになったんです。そうすると人生の見方がすごく変わってきて」
 2010年の『長田大行進曲』では、言わなかったような言葉だ。
「お金持ちになれるならなりたいし、立派な地位がもらえるなら、もらいたい気もします。でもそれよりも、自分に与えられた寿命を最後まで生き抜く。それが人間の目標やって思ったんです。簡単そうやけど、実はとても難しいことなんじゃないかって思います」
 前田さんは体調を崩し、活動を休んでいる時期があった。おそらく地獄を見てきたのだろう。
「ここに来てる皆さん。きっとガガガSPを知ってるということは、それなりに人生を、歳を重ねているのでしょう。仕事で、家庭でしんどいことがあったりもすると思うんです。人生の清掃業者を呼びたくなる時も、あったかもしれない。今後あるかもしれない。そんな中でも、寿命を生き抜いてやろうじゃないですか。死ぬまで生きてやろうじゃないですか!」
 そして『卒業』が始まった。

(撮影:梁井一)

さよなら、さよなら、さよなら
多分もう会うことはないよ
君が強く心をつなぎ
そして今日もまた日が暮れていく———

ガガガSP『卒業』

 繰り返される「さよなら」に涙が止まらなかった。
 歳を重ねるごとに「さよなら」の数が増えていく。会いたいけれど会えないままの人、伝えたいけど伝えられないままの想いが、増えていく気がする。でもいつまでもその気持ちを、抱えていてはいけない。手の中がいっぱいだと、新しいものを掴めないから。

さよなら、さよなら、さよなら
君にもう会いたくはないよ
君と会えば僕は多分、一生忘れられないから
さよなら、さよなら、さよなら。
素直に喜べることはないよ———

ガガガSP『卒業』

 この曲はこの後、
「僕は君を卒業するよ。切ない気持ちとともに」
 という歌詞で終わる。
 ———卒業しないといけない。
 戻れない過去。未練の残る想い。それらを捨てないと、新しい未来を掴めない。そこに残酷さを感じ、胸が潰れそうだった。
 しかし曲の最後、前田さんはこう歌った。
「僕は君を、やっぱり! 卒業しないよ! 切ない気持ちとともにー!」
 ハッとした。
 ———この気持ち、もうちょっと抱えてても良いのかな。
 その瞬間、自分の弱さに少し優しくなれた気がした。

 結局まだうまく説明できそうにない「この気持ち」は、また別の機会に書くことにしよう。


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藤かんな
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