第132話 『4/8woman写真展』〜会場設営にこっそり行ってみた
みんなは写真展を、どんな気持ちで迎えるのだろう。私は・・・・・・覚悟。
会場設営はまるで工事現場
『4/8woman写真展』(フォー・エイトウーマン)が始まる前日。2024年12月16日。会場設営の様子をこっそり見に行った。
朝9時すぎ。
「ギーギー」ネジを閉める音。
「ゴンゴンゴン」硬いものを叩く音。
「そっち引っ張って」男性の声。
設営はすでに始まっていた。
そしてたくさんの人間の手によって、会場は創られていった———
まず、8人の男たち。
彼らは壁と床の特大写真を作製していた。高さ3メートル、幅4メートルの壁の特大写真。3枚のベニヤ板をくっつけ、そこに1枚のシートに印刷された巨大な写真を、ホッチキスでとめていく。優雅な写真展会場も、設営時はまるで工事現場だ。
「そこの女の子の写真、右5ミリあげて」
「あげすぎた。2ミリ下げて」
八蜜凛のおっぱい丸見え写真を調整する彼ら。おっぱいとかお尻とか関係ない。いかに素早く正確に仕事をこなすか。それがオレたち、職人。
次にスーツ姿の2人の男。
彼らは現場の様子をずっと見守っていた。たまに西田幸樹さんと話している。どうやら印刷会社の人たちのよう。
8人の職人たちが、床に写真を貼っていく。幅1.5メートルくらいの細長いシート。壁の特大写真と違って、やや光沢があった。
「床の写真も壁の写真と同じ素材なんですか?」
私は西田さんに聞いた。すると隣にいたスーツの男がすかさず説明してくれた。
「エンビです。塩化ビニル」
それから彼は、床写真の素材を説明し始めた。
「塩化ビニルのシートに印刷して、上からセラミック加工、つまり、硬い素材でコーティングしています。油汚れなどに強く、踏んだりブラシのような衝撃も問題ありません」
安直な表現だが、仕事を一生懸命やっている人かどうかは、こういう場面で現れるなと感じた。どうか貴方の営業成績が右肩上がりでありますように。
そしてサンタのような男。
職人たちが昼休憩に出かけると同時に、サンタも顔負けの髭を生やした男が、白のミニバンでやってきた。トナカイではない。
「額装写真です」
サンタはS、M、Lサイズの写真を届けにきたのだ。サンタはちゃきちゃきと写真を運び入れ、枚数をきちんと確認し、慌ただしく去って行った。早めのメリークリスマスをありがとう。
看板職人を質問攻めにする
サンタの後は、ウェーブロン毛の男。即興ラップができそうな風貌。しかし彼はそよ風のような優しい声で、
「よろしくお願いします。早速、貼っていきます」
と、入り口のガラス扉に写真を貼っていった。シート状の写真を広げ、霧吹きで水を吹きかける。そしてハケで丁寧に空気を押し出す。無駄のない動き。彼の背中からは、ラップもヒップホップも流れていなかった。
「それは水だけで貼ってるんですか?」
彼は「背中を刺された!」な勢いで振り向いた。
「あ、水と少しの洗剤を混ぜています」
「水が乾いても取れないんですか?」
「あ、さらにしっかり貼り付きます」
「そのシートは何でできてるんですか?」
「塩化ビニルで、裏面はシールです。でもこれを直接ガラスに貼ると、空気が入ってしまうんです。なので水をかませています」
「なんで洗剤がいるんですか?」
私の「なんで、なんで」攻撃は止まらない。作業を邪魔しているとは分かりつつ、すみません。聞かずにはおれない病気なんです。
しかし彼は嫌な表情せず、丁寧に答えてくれた。
「洗剤を入れると、ぬるぬるするので、シートの貼り位置の調整しやすくなります。あと、水が柔らかくなって空気が抜けやすくなります」
なるほど。洗剤の界面活性剤で水の表面張力を弱めているのだ。石けんのついた肌が水をはじかなくなるのと同じ。
その後も彼に「なんでこの仕事してるんですか?」や「いつからやってるんですか?」など、質問攻めした。ちなみに彼は父親から仕事を引き継ぎ、30年間、看板などを作っているベテランだった。
その後も、写真集やカレンダー、『はだかの白鳥』などの物販を届けてくれた、佐川急便の男や、クロネコヤマトの男。
そして警察が2人!
エイトマンマネージャーの山中さんが、会場にポスターなどを運んできた時のこと。会場に車を横付けしていたのだ。
「近隣の方から、通報がありました」
ガタイのいい警察2人が、物々しい表情で言う。しかし私は彼らの心を、こう読んだ。
「いや〜、ここら辺の人ら、厳しいんっすわ。さ〜せんが、どっかの駐車場に入れてくれまへんか。オレらもこれが仕事なんす〜」
山中さんは「分かりましたっ!」と速やかに車を移動させていた。
さらに、期間中、会場運営をしてくれる、2人の男と1人の女。彼らは赤いレーザーを放つ水平器を使って、額装写真を展示した。
「まずLの位置を決めましょう。それを基準に、M、S並べて。西田さん、ここの写真の幅、どうしますか?」
ただ適当に写真を並べるのではない、高さ、向き、並び、全てを計算して、緻密な作業。赤いレーザーが張り巡らされた、真っ暗な会場で。まるでスパイ映画のワンシーンだ。脚立に乗っている西田さんがトム・クルーズに見えなくもない。
スタートの時点で結果は決まっている
そして西田幸樹!
彼はずっと写真と光のあんばいを見極め、天井のライトを調整し続けていた。写真貼りの職人たちが休憩に行くタイミングなどを見計らって、照明を消したり付けたり。脚立に登ってライトの向きを、光を絞るための筒の長さを微調整。
「西田さん、今回の写真展も、これまでのエイトウーマン写真展みたいに大変でしたか?」
毎年、エイトウーマン写真展で西田さんは「終わった後の達成感は大きいけれど、もう二度としたくないと思うほど大変」と言っていた。今回はどうだったのだろう。
「いや、楽だった。今回は女の子ひとりひとりを3、4日かけて撮影できたから。エイトウーマンは8人を3、4日で撮らないといけないのが大変だったんだよ」
それを聞いて、気持ちが少し楽になった———
正直、私にとって「写真展=むっちゃ大変」という思いが強い。2022年、2023年の『8woman写真展』、2024年の『#寧々密会写真展』。3回の写真展をスタッフとして参加してきた。毎回、写真展期間中のどこかで、「もうアカンかもしらへん」と限界を感じる瞬間があった。気疲れ、noteやXの書き疲れ、寝不足、HP切れ。しかし五臓六腑と脳みそを、ぐちゃぐちゃにしてこその「写真展」。そんなマゾ的な覚悟が焼き付いている。
だが、祭りは中心にいる人間が一番大変だ。主催のエイトマン社長や、西田さん、山中さんは、「写真展=吐きそうなほどむっちゃ大変」だろう。
社長はいつの日か、800メートル走の話をした。彼は学生時代、陸上部で800メートルが専門だった。
「スタートラインに立つ時はいつも、吐きそうなくらい憂鬱やった」
800メートルは中距離とされ、長距離の有酸素、短距離の無酸素、両方のパワーを持ち合わせなければならない。陸上競技の中でもっとも過酷と言われている。
「でも大学生の頃、ある思いに至ってん。スタートラインに立った時点で、結果は決まっている。ならば今からの地獄をいかに楽しむかやって。そしたら、またタイムが延び始めた」
さあ、私たちはスタートラインに立っている。たくさんの人間によって創られた、スタートラインだ。写真展の2週間、天国か地獄か、はたまた両方か。何が起きるかは分からない。しかし結果は決まっているので、いかに楽しむか、やで。