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第136話 『4/8woman写真展』ウラ話③〜星まりあが駆けつけてくれた
『はだかの白鳥』を星まりあと朗読
「藤かんなちゃんいますか?」
18時ごろ、入り口から、女の人の細い声が聞こえた。
同じエイトマン事務所に所属している、星まりあさんだった(以下、敬称略)。大きなニット帽に、大きなファーの手袋。小柄さが際立つ。寒かったのだろう。鼻の先は少し赤い。
「かんなちゃん、今日、写真展で1人だって聞いて」
2024年12月23日。写真展7日目。この日はエイトマン社長が体調不良で不在。さらには在廊予定の八蜜凛ちゃんも体調不良で欠席。特に問題は起きていないが、少し寂しい物足りない気分だった。
そこに来てくれたのが、星まりあ。腹の底から歓喜が湧き上がる。きっと社長が連絡してくれたのだろう。体調を崩しても、強力な人員を送り込む彼には感服だ。
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星まりあと会場を見ながら、思いついた。
———彼女に『はだかの白鳥』を一緒に読んでもらおう。
この日、18時半から『はだかの白鳥』朗読会をする予定だった。私が感情をぶちまける魂の第4章。以前、朗読した時は、つばさ舞が一緒に読んでくれた。
「今日『はだかの白鳥』朗読会ってのをやるんですけど———」
一緒に朗読してくれないかと、提案する。
「あ、聞いてます。やります、やります」
彼女は快諾してくれた。朗読会のことも社長から聞いていた様子だった。
そしてすぐに朗読会は始まった。打ち合わせはほとんどない土壇場スタート。彼女には、私がXで大炎上した時に受けた、ネットアンチの声を読んでもらう。
「炎上商法みたいなことして、成り上がるためにはそんなことしか思いつかない?」
「やっぱりAV女優は底辺だ。クソみたいな仕事」
「擁護してた他のAV女優が可哀想」
なんか、そんなセリフ、言わせてごめんな。
星まりあに申し訳なくなる。しかし彼女なら、ここに何かしら、自分の過去を重ね合わせてくれるんじゃなかろうか。そう思った。
そして期待通り、彼女の朗読にはどんどん気持ちが入り、上手になっていく。AV女優ってセックスしてるだけちゃうねん。みんな表現者なんやで。
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星まりあ伝説
「AV撮影の時に何か意識してたことありますか?」
今から3ヶ月前、星まりあにそう聞いたことがあった。その場には社長もいた。彼女は1年ほど前にAV活動を休止していた。
「目を大事にしてますね」
彼女は答えた。
「ユーザーって結構、女優の目を見てるんですよ。だから、撮影の時は本当に男優のことを好きになってます。そういう感情って目に出るじゃないですか」
深くうなずく私。そこに社長が言った。
「星まりあ伝説ってのがあるねん」
その伝説とは、AVの新作企画は、まず1番に星まりあに主演のオファーが来るとのことだった。
「なんでですか?」
「星まりあが出たら、絶対に売れるねん」
彼女の「目を大事にしてます」の話からしても納得だ。
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成功する人間は哲学を持っている
朗読会が終わった。
「アンチの声の受けた時の気持ち、すごく分かるなと思いました。私も経験あるし。本当の自分が言われてるんじゃない、全然顔も知らない人に言われてるだけだけど、すごく、しんどいんですよね」
星まりあが私に言った。
そうそう、そんな話もしたよね。
「まりあさんはどんな人生を送ってきたんですか?」
これも今から3ヶ月前、彼女に聞いたことがあった。
「至って真面目に生きてきましたよ」
星まりあは自分の半生を語り始めた。
やる気満々で社会人になった。でも理想と現実は違って、駒のように働く毎日。必死に働くが、給料は平行線。歩合もない、評価も上がらない。入社当初のやる気はどんどんしぼんでいった。
AV女優になり、『DMMアダルトアワード』でトップを獲りたいと思った。人気AV女優ナンバーワンを決める賞イベントだ。しかし彼女がデビューしたその年、『DMMアダルトアワード』は開催されなかった———
「人間やめたくなりません?」
星まりあは少しおどけて言った。しかしその目には悔しさ、虚しさ。諦めたくない・・・・・・! 熱い感情が詰まっていた。
「私、人を判断する基準みたいなのがあるんです」
なになに?
「自分が前にいた会社をけなす人。世話になった人の悪口を言う人。そういう人とは付き合わないでおこうって思ってます」
写真展会場から帰っていく星まりあを見送りながら、あの日、彼女の言葉に対して言った、社長の一言を思い出した。
「成功する人間って、哲学を持ってるよね」
いつかまた会えますように。彼女が再び活躍する姿を見られますように。もし何かあれば、今度は私があなたの元に駆けつけます。
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