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第18話 初めてのAV撮影⑤〜撮影を終えて考えたこと〜


「スタッフの替えはきいても、女優に替えは効かないんです」

 目が覚めた。見えているのはホテルの天井だった。
「そうか、昨日、撮影だったんだ」
起きあがろうとしたが、体に力がうまく入らなかった。内転筋あたりがつっぱっている感じがする。
「そうだそうだ、昨日、3回もガチセックスしたんだ」
のそのそとベッドから起き上がり、帰る支度を始めた。

 人間の体はとてもタフである。あれだけぐちゃぐちゃにされても、こうして普通に歩くことができる。そして時間の流れはとてもそっけない。ものすごく濃厚な1日があっても、次の日は何もなかったかのようにやってくる。
 ホテルのチェックアウトを済まし、キャリーケース引いて、東京駅に向かった。昨日のことは夢だったのかと思うほど、世間は私に全く興味を示していなかった。

 新幹線に乗り、窓の外をぼんやり眺めていた。とても清々しい気分だった。これまで感じていた不安や緊張はもうない。ずっと開けるのが怖かったブラックボックスを開けて、中身を知ってしまった今、私の気持ちは凪いでいた。そして自分を前より愛おしく感じた。

 正直、AVの撮影現場はもっと劣悪な環境を想像していた。嫌なことも我慢しなければならないと思っていたし、雑に扱われることも覚悟していた。とにかく「怖い」と思っていた。

 だが実際、私の想像とは真逆なことばかりだった。呆気に取られるほど、現場はクリーンで、監督やスタッフの真剣さ、男優の本気度。みんなが全力でAVを創っていた。その熱量を感じ、胸にグッとくるものがあったし、何より、みんなが必死になっている現場で働けて愉しかった。

 これまで私が偏見を持っていたことを、土下座して謝らなければいけない。それくらい想像していた「怖い」とはかけ離れた世界だった。

 昨日、撮影終わりの帰りの車の中で、山中さんが言っていた事を思い出した。私が撮影の現場で、あまりにも丁寧に扱われるから、少し戸惑ったことを話したのだ。
「スタッフの替えはきいても、女優の替えはきかないんです。だから丁寧に扱われていいんですよ」

 藤かんなになって、私は私だけのものではなくなった。それを意識して自分を大事にしていこうと思った。もう無防備に男の人と遊ぶこともないだろう。
”AV女優になるって、ある意味、出家だな”。
そんなことを思った。そして”今日はさすがにバレエへ行くのはやめておこう”と考えていたら、新幹線の中で寝てしまっていた。

社長からの未来予告「AVはいずれ会社にバレる」

 初めてのAV撮影が終わって、数日後、社長から電話があった。
「どうやった?初めての撮影」
私は思ったままを話した。プロのセックスは桁違いだったこと、これまで感じたことなかったような「イク」感覚、3絡み全て潮吹きしたこと、男優さんの見事なリード、どんな状況でも射精できる精神力。(卓さんのベロベロがおかしかったことは言わなかった)。そして現場は想像と違ってとてもクリーンだったこと、みんなものすごく真剣にAVを創っていて、その熱意に胸を打たれたこと、そしてその人たちと一緒に働けて愉しかったこと。

「プロの男優とのセックス知ったら、もうそこらへんの人とはできないよね。『可愛い女の子とセックスしたいから、AV男優なろかなー』なんて言ってる奴に、『お前みたいな奴がAV男優なれるか!』って言ってやりたいよね。
 藤かんなはこれからもっと良くなるし、どんどん綺麗になっていく。それは絶対。でも色んなことは起きてくると思う。会社にもいずれはバレるよ。いや、100%バレるとは言い切られへんけど、98%の確率でバレる。でもあなたは会社という枠に収まって満足できる人間じゃなかったんやから、その時は自分に自信持ったらいい。
 あなたがAV女優やと知って去っていく人も出てくる。縁の切れる友だちもいると思う。でもそんな奴はその程度の関係やってん。こっちから『縁切ってくれてありがとう』って言ってやったらいい。
 とは言ってもその時は苦しいと思うよ。ただ、人生浮き沈みが絶対あるねん。失うものもあるやろうけど、その分得るものが絶対ある。だってあなたは、そこら辺の人がなかなかできないことして、戦おうとしてるんやから。だから、これからも戦い続けなあかんねん」

 社長と話をすると”この人が言うなら大丈夫”と、いつも思わされる。
 そして”よし頑張ろう”と、エネルギーをもらう。

「またね。ありがとう」
そう言って社長は電話を切った。

 社長には未来が見えているのではないだろうか。この時社長に言われたことが、実際にどんどん起きた。会社にAVがバレることや、私がAV女優だと知って去っていった人たち・・・。
 それについては、いずれまた書くことになるだろう。
 
 ”私のあたらしい世界は開いた。もう進むしかないんや”。

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