第128話 藤かんな京都日記〜『はだかの白鳥』各章テーマソング発表!
「歴代彼氏のプレイリスト作ってますよ」
「俺は昔から、ひとりで『今年の俺の映画ベスト10』を決めてた」
2024年11月4日。京都駅の喫茶店で、エイトマン社長が言った。
「そのベスト10は誰に発表するとかじゃないねん。全部、自己完結。でも『今日は発表の日や・・・・・・』ってドキドキしたり、『この映画、3年連続トップ10入りか!』って、ちゃんと気持ち入れて遊んでた。俺、ひとりっ子やから、いつもひとりで遊んでた」
ひとりっ子だろうと、兄弟がいようと、おそらく彼はひとり遊びをしていただろう。そんな反論の意を込めて、私は言った。
「それでいうたら、私は歴代彼氏のテーマソング決めてますよ。そのプレイリストも作ってます」
そして自分のYouTubeアカウントを開いて、プレイリストを見せた。
社長は、俺よりやばいやつおった! と言わんばかりに笑っていた。
「このプレイリスト聴くと、当時の空気とか匂いを思い出すんです。キュンとする」
「でもその歴代彼氏って全部、別れてるんやろ?」
「ええ。連絡も取っていません」
「思い出そうとしてるやん・・・・・・」
「根深い女なんです」
あはは、と笑うしかなかった。確かに、見方によれば未練たらたら。でもこれは私のひとり遊び。歴代彼氏も大切な思い出なのだ。
「『はだかの白鳥』の各章のテーマソング決めてみてや。条件は、1アーティスト、1曲。なんかワクワクせえへん?」
社長は言った。私は「いいですね」と相槌を打ち、そのまま違う話になった。
17時、社長と別れ、東京へ戻る新幹線。3連休の最終日ということもあり、京都駅のホームはものすごい人の量だった。人の波にのまれないよう、売店の壁にくっついて新幹線を待つ。
まだしばらく新幹線は来ないのに、乗車口には長い列ができている。指定席なのになぜみんな並ぶのだろう。私はいつもあの光景が不思議でならない。
行列をボーっと眺めていると、列の中の1人がこちらに歩いてきた。
「握手していいですか?」
30代前半の男性。私は「あ、はい」と、驚きを隠せないまま握手をした。
「いつも見てます」
男性は軽く微笑み頭を下げ、再び列の中に戻って行った。
———誰かと間違ってるんちゃうかな。
その時の私はすっぴんで眼鏡、黒のキャップ帽をかぶって、服は上下白黒。藤かんなかどうかという以前に、誰の印象にも残らない格好をしていた。
「バ○リ○ムさんってな、仕事以外の時はほんまにオーラ消すねん。誰にも気付かれへん。本物のプロってオーラ消せるねなあ」
いつかの社長はそう言っていた。
———本物のプロはオーラを消せる。
私はまだまだだった・・・・・・。
妙な敗北感を覚えた。いや、そもそも人違いかも知れないのだが。
ちなみに握手をした彼のテーマソングは、アニメ『けいおん!』の『ふわふわ時間』だ。彼は私の大学時代の友人に似ていた。友人はカラオケでいつも必ず、『ふわふわ時間』を歌う。男の裏声で必死に。元気にしてるかな。
4章の叫びはサンボマスターで
21時、家に帰って、夕飯を食べながら、録画した朝ドラと大河ドラマを見て、風呂に入って寝ようとした。が、寝る直前に頭が冴えてくることは多々ある。
———降ってきている。
『はだかの白鳥』の4章のテーマソングが、思い浮かんだ。本棚から『はだかの白鳥』を引っ張り出し、4章を読み返す。スマホで曲を流しながら、また読み返す。
4章のテーマソングは、サンボマスターの『I love you & I hate world』だ。この曲はおそらくあまり有名ではない。しかし私はこれを初めて聴いた時、耳が離せなくなった。
イントロはなく、いきなり歌詞から始まる。
言葉のインパクトに鈍器で殴られたような衝撃を受ける。
『はだかの白鳥』4章の315頁の後ろ3行目から、私は今まで誰にも言えなかったことをぶちまける。本当はこんなにも世界の色んなことを憎んできたんだと、自分でも止められないくらいに吐き続ける。「こんな腐った世界」と何度も罵り、この世の全てに失望して、絶望する。
しかし318頁の5行目から、はたと怖くなる。この世の全てを憎み呪い、真っ暗闇になっていく自分にだ。
世の中はそんな酷いことばかりでなはなかったはず。両親に愛されて育って、私自身も必死に生きてきた。愉しかった。それなのに、そんな過去の自分をも、自分で黒く塗り潰そうとしている。両親からもらった命、愛情、全てを忘れてバケモノになろうとしている。ああ、間違ってる間違ってる。どうか赦してください。私が私を守らないと。
私は伝えたったのだ。憎んできたもの。愛してきたもの。この世をクソだと思ってきたこと。生きることは愉しいと思ってきたことを。これからも何かや誰かを愛する気持ちを、持ち続けていたい。生きることに絶望なんてしたくない。そう願い叫びたかったのだ。
聴いて読んでみな、泣くぞ
最終的に完成した『はだかの白鳥』プレイリストがこれだ。
1章、悲しみの果てに何があるかなんて分からない。しかしきっと私の未来は明るい。涙の後には笑いがあるはずだと、救い探した。
2章、自分史に革命が起きていることに分かり始める。本当の悲しみは自分ひとりで癒すもの。そのために未来は自分の力で見出す。
3章、女であることを利用すると、周囲から睨まれる。そして組織から追い出されることを思い知る。しかし、私は負けたって自分の欲しい未来を求め続ける。そう決意する。
5章、生まれ育った場所からの卒業。「さよなら」を自分自身に言い聞かせることで、前に進もうとする。離れたくない人も場所も、一旦、卒業。切ない気持ちをこれからの糧に。
6章、東京の夜、両親のことを想う。辛い涙も悲しい気持ちも、明日になれば全て消える。しかしこの時の私のため息が両親に届けば、きっと誰よりも悲しむだろう。今まではとにかく自分の強く保つことに努めてきたが、それをいつか優しさに変えて、届けられればと思う。
プレイリストを作ることで『はだかの白鳥』が、またさらに大切なものになった気がする。
これ聴きながら、読んでみな。泣くぞ。