第9話 藤かんな世に出る そして決断する
藤かんな初の『週刊ポスト』掲載!
年が明け、1月、私は藤かんなのTwitterを開設することになった。これまでSNSをほとんどやってこなかったので、エイトマンの誰かが動かしてくれないかなと、期待した。
「Twitter、私が動かしていいんですか?」
あくまでも、表向きの自主性をアピールしつつ、社長に聞くと、
「うん!やって!」
期待に反した返事がきた。残念。
2月7日。ついに私のグラビアが載る、週刊ポストの発売日である。朝、出勤前にコンビニへ寄った。週刊ポストはなかった。もう一軒寄った。そこにもなかった。「発売日、今日じゃなかったのか」と思い、とりあえず会社へ行った。
昼休み、週刊ポストのことが気になって、またコンビニへ探しに行った。「もしやこれは、私のグラビアが載っているから、売り切れまくってるんじゃないか?」と、自意識過剰なことを考えながら。そして4軒目のコンビニでようやく見つけた。
ちょうどその時、社長から連絡が来た。
「週刊ポスト、出たから、ツイートしといて!」
丁寧に、雑誌の表紙の写真も送ってくれた。早速、ツイートし、念願の週刊ポストをレジに持っていった。
コンビニを出て、私は生まれて初めて袋とじを開けた。いけないことをしているような気持ちと、昼休みが終わってしまう焦りで、手元が狂い、袋とじを盛大に破いてしまった。なんたる失態。とりあえず急いでもう一冊購入し、会社に戻った。
初めての袋とじ開封、興奮してもう一冊買う
午後の仕事をしている間も、週刊ポストが気になり過ぎて、全然集中できない。”これはあかん!”と思い、週刊ポストをパソコンといっぱいの資料の間に挟み、カッターをポケットに入れ、トイレへ行った。そしてそこでようやく開封した。
私は、静かに感激した。グラビアの写真がとても綺麗だったのと、自分が公の雑誌に載っていること、そして袋とじを開けたという初めての経験に。3つ目は半分冗談だが、社長の言った「無名の『藤かんな』が、西田さんに撮ってもらって、小学館の週刊ポストに載る!すんごいことが起きるよね!」の『すんごい』が本当に起きそうな気がした。
仕事帰り、小さな本屋さんに寄って、週刊ポストをもう1冊購入した。保存版としてだ。私がそれをレジに持って行くと、レジのおじさんが、
「ポストで間違いないです?」
と聞いた。私は慌ててしまって、
「あ、はい!友だち載ってて!!」
と、余計なことを言ってしまった。しかも大嘘。
週刊ポストにグラビアが載ったと同時に、デジタル写真集が発売された。早速、自身初のデジタル写真集も観た。
”グラビア挑戦してよかった。きっと死ぬ直前もそう思える”。
私はそう思った。自分史に残る出来事がまた1つ増えた。
諦めきれない『AV女優になること』
それから私はあることを考えるようになった。『AV女優になること』についてだ。
私は自分が輝ける舞台で、大きなことを成し遂げたかった。今こうして、ポストに載ったことは、大成する確証ではないにしても、チャンスであることは間違いない。
ここで終われば、親にも会社にもバレることはないだろうし、バレても誤魔化せるだろう。そしてこれまで通りの変わらない日常を過ごす。『変わらない日常』、私はそれが嫌だったのではないか。このままで終わりたくないと思って、悩んで悩んで、AV事務所を回ったのではないのか?
「本気でやったら、絶対幸せなるねん!」社長はこう言った。きっとこの裏には「ビビったらあかん!信じてやりきれ!」という気持ちがあったのではないか?ああ、どうしよう。私はどうしたい?何がしたい?誰でもいいから正解を教えてほしかった。
週刊ポストに2度目のグラビア掲載があった頃、社長から連絡がきた。
「グラビア、反響がいい!」
私は再び、社長に会いに行った。
AV女優になりたい本当の理由
社長に会い、これまで伝えられていなかった思いを、できるだけ全て素直に伝えた。
「自分のグラビアを見て、自信がついた。撮られることはとても気持ちよかった。それでまたAVのことを考え始めている。
会社で働いてて、自分はもっと何かできるのになと、正直燻っていた。初めはこの会社で活躍するんだって、もがいていたけど、やってもやっても評価に繋がらなくて、だんだん向上心もなくなってきて。だからもちろん、やりがいも見つからなくて、悪循環。毎日がつまらなくなってきた。
その頃、私は男の人とよく遊んだ。セックスに逃げた。求められて認められたかった。色んな人と関係を持って、思ったことがある。私、セックス上手いんだって。私自身セックスは好きだった。人間が一番動物らしくなる、興味深い分野だなって昔から思ってた。男の人は私とのセックスをすごく褒める。すごく求めてくるし、何回もリピートしてくる。まあ簡単にできる女、と思われてただけかもしれないけど。でも私が性に対して開放的なことも含めて、これは私の『才能』なんじゃないかと思うようになった。それと同時に、男に逃げてる自分ってカッコ悪いな、て思うようになった。自分を削ってるというか、安売りしてる感じがして。
勉強もバレエも仕事も、くそ真面目に一生懸命やってきて、腐らず真っ直ぐ生きてきたのに、そんな自分を雑に扱ったら、あまりにも可哀想だと思った。『私は決して安い女じゃない。もっと上等な女や。上等な女にならなあかん』そう思って、男遊びは辞めた。
もう1つ、私には持ってるものがあると思う。体が綺麗なこと。身長低いけど、バランスがいい。体が痩せても、おっぱい痩せない。私のおっぱいは、持って生まれた『才能』だと思う。バレエには邪魔なものだったけど、おっぱいを含め、この体は男女問わずよく褒められた。
自分が『才能』だと思えるものが見えてくると、私の活躍すべきフィールドは、メーカーの商品開発でなく、バレエのガチステージでもなく、性を表現する場だと思い至った。
そこから性を扱う仕事を考え始めた。風俗も考えたけど、病気のリスクが嫌でやめた。それに私はやっぱり注目されたかったし、でっかいこと成し遂げたかった。だからAVに行き着いた。
社長との面接の時、志望動機はバレエ教室を開く資金づくりのためって言ったけど、その理由は2割くらい。こんな生々しい志望動機を語るのが恥ずかしくて、8割はしょった。すいません」
私の話を聞いて、社長は言った。
「俺は悩んだとき、死ぬ直前にどう思うかなって考える。きっと誰もがそうやと思うけど、死ぬ前に後悔だけは絶対したくないから。人生ってさ、映画やねん。映画には起承転結がある、それ。起承転結がはっきり大きくある方が、観てて面白いやん。いや、感じ方は人それぞれやけど。少なくとも俺はそう思う。そして今、自分の人生という映画を創ってる。きっと俺はむっちゃ面白い映画を創ってる。
でも、もし俺がタイムスリップできたとして、小学生の自分に『お前、将来、AV事務所の社長してるで』って言ったら、小学生の俺は絶望で大泣きするよね。もうその場で手首切るかもしれへん。だってAV事務所開くなんて夢にも思ってへんし、『なんでよりによってAV事務所なんや』って思う。でもきっとそれは何も知らんから。
みんな何も知らんから、印象だけでものを言うねん。『AVなんてやったら人生終わりやー』とか。そんなん放っておいたらいい。AV女優やったって、人生終われへん。人生って今世で終わりちゃうで。来世も来来世もあるねん。批判する奴は、戦う勇気なんてないねん。『あなた、私と同じことできますか?』って聞いたったらいい。きっと何も言い返せない。
前にも言ったけど、みんなと同じことしても勝たれへん。誰も攻めてないところを攻めなあかん。みんながしないことを本気でやる。だから勝てる。エイトマンはAVだけで収まらへんよ。葵つかさが映画に出たのもそう、8woman写真展もそう。映画も写真展も、別にでっかい収入があるわけじゃない。でもそれを見た人たちが反応してくれて、次の何かに繋がるねん。実際繋がってる。
藤かんなは今、映画の第2章が始まろうとしてるね。その内容が淡々としてても、でっかく爆発しても、それはあなたの映画。内容を評価するのは、きっと死ぬ前の自分やね」
最後に社長は「教室開くためにAVするんじゃないって、そんなん分かってたわ」と言って笑った。
社長と話をすると、”私は絶対大丈夫”と思わされる。とんでもない人だけど、周りを巻き込んで、人を奮い立たせる力がある。この人は、どれだけのことを経験してきたのだろう。もう人生2、3周してるのではないかな。どこか悔しいけれど、この人といたら、すごい世界が見られそうな気がする。
数日後、私は社長に「やっぱりAV、頑張らせてください」と連絡した。社長からは「ありがとう(にっこり絵文字付き)」と返ってきた。この人と一緒に闘い続けたら、とりあえず天王寺らへんで野垂れ死ぬことはなさそうだ。