第134話 アナタと藤かんなの官能小説②〜再会したのはAVメーカー『Madonna』で
私にはずっと前から密かに想いを寄せている人がいる。よく行くTSUTAYAの店員だ。彼はいつもダンスをするようにDVDを陳列する。楽しそうに、1枚1枚を愛おしそうに。
———『冨野』
知っているのは胸プレートに書かれた名前だけ。黒髪センター分け、黒縁メガネ。背丈は175センチくらい。
貴方はなぜそんなに楽しそうなの? 好きな映画は? 休みの日は何をしている? 話しかけたくてたまらない。だから私はついに行動に出た。
冨野さんが『アルマゲドン』のDVDを棚に置こうとする。
———今だ!
手を伸ばし、偶然を装って、彼の手に触れた。
「あ、すみません!」
彼は驚いた猫のように固まった。気まずい沈黙が流れる。
「あ、アルマゲドン、もう1回観たいなと思って。何度観ても泣きますよね」
「・・・・・・ぼく、観たことないんですよ」
映画好きゆえの、人気作を観ないタイプだろうか。そういうの、嫌いではない。会話を途切れさせぬよう、私はすかさずボールを投げた。
「あの、好きな映画、3つ教えてもらえませんか?」
相手の性格を知るにはこれが手っ取り早い。
「え。え〜っと・・・・・・ラピュタと、モンスターズインクと・・・・・・下妻物語」
澄んだ心を持ったキュートでいびつな人。そして彼は映画を語り始めた。
「モンスターズインクのサリーのお尻さんなんて、とっても可愛くって———」
———お尻さん。
やや引っかかったが、ダンスをするように身振り手振り話してくれる。楽しそう。
ああ、あなたのその指に触れてみたい。ふさふさ揺れる前髪をそっと撫でてみたい。メガネの奥の瞳をもっとよく見せて。
しかしその日以降、彼と会うことはなくなった。TSUTAYAを辞めたらしい。人の縁とはそんなものだ・・・・・・。
それから10年。たくさんの人と出会って別れて、私はAV女優になろうとしていた。メーカー面接。熟女ナンバーワンメーカー『Madonna』。
「プロデューサーの冨野です」
黒髪センター分け、黒縁メガネ。でもまさか。
彼は履歴書を見ながら質問をしていく。ダンスをするような話し方。楽しそうに私の返答をメモする。
「かんなさんは、お尻さんを指で触るとか、お尻さんを舐められるのは大丈夫ですか?」
———お尻さん!
ああ、やっぱり彼だ。愛おしそうにDVDを陳列していた冨野さんだ。
「———じゃあ、最後に裸写真を撮らせてください」
10年前、淡い想いを寄せた冨野さん。私は彼に触れることが叶わぬまま、彼に裸を晒すことになるのか。
———じゅっ。
パンツが熱い愛液で濡れるのを感じた。
(これはフィクションであり、『4/8woman写真展』の特典企画小説です)