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100倍、身につく国語力 (42) 独特表現篇

❤小~高校生と,母親向けのレッスン


 (1年間で国語力の悩みが解決できる!)

独特表現篇 ④

  
【独特表現の日本語の特徴】
 
2.日本語特有の独特表現の実態
 
(4)「よろしかったでしょうか」は
  なぜ過去形か

 
 コンビニやレストランのレジで支払い
をするとき、レジ係から必ず支払い金額
が復唱されます。例えば、お客が1,000円
支払うと、「1,000円で、よろしかった
でしょうか」
という表現が、当然のよう
に使われています。
 
 しかし、この「~でよかったでしょう
か」
という表現が、何となく気になった
ことはないでしょうか。私は、言語に関
する仕事を長くやっていた関係から、妙
に心にひっかかることがあります。次の
ように続けて耳にすると、やはり何だか
か落ち着かなくなります。
 
 ・「ご注文は以上でよろしかった
   でしょうか」
 ・「お皿の方、お下げしてよろし
   かったでしょうか」
 ・「お名前を頂戴して、よろし
   かったでしょうか」
 ・「今、お時間はよろしかったで
   しょうか」 
 
 いずれも初対面の人の客に対して、話
し手が過去形で話すという特徴がありま
す。これはいろいろな場所で広範囲に使
われているのは、接待業のマニュアルに
なっていて、ある意味では一種の敬語と
しての地位を得ているのでしょう。
 
 いったいこの「 ~でよろしかったで
しょうか」は、どこで初めて使われる
ようになったのか、気になっていまし
たが、偶然ある本を読んでいるときに
答えが見つかったよう気がしました。
 
 それは、梶原しげる著『そんな言い
方ないだろう』
という本で、筆者に
よれば、はじめてこの言い方を耳に
したのは、北海道のデパートだった
そうです。そのときに贈答品を買って
領収書をお願いすると、「宛名は上様
でよろしかったでしょうか」といき
なり、過去形で言われてとき違和感
を抱いたということです。


 はじめての客のだから、「宛名は
何とお書きしましょうか」
とか、ある
いは「宛名は上様でよろしいでしょう
か?」
と言えばよくて、現在形で聞いて
ほしいのが礼儀のはずだがは、という
疑問を呈しておられます。
 
 梶原氏はさらに、「『よろしいで
しょうか』という問いかけには、客に
判断を求める謙虚さが残っています

「 よろしかったでしょうか」では、
すでに判断は店側が済ませてあり、
客にその承認を求めるという傲慢(ごう
まん)さが感じられます
。過去形にされ
た瞬間、領収書に書かれるべき宛名が
上様であることは既定の事実にされて
しまい、『いや違います』と否定しに
くい心理状態に追い込まれてしまった
ようです」と、書いていらっしゃいま
す。
 
 私もその言葉を聞いて違和感を抱い
ていたので、梶原氏の考えに全く同感
ですが、それでは、なぜ過去形になる
のかについて、長い間不思議でなりま
せんでした。これについては、学者の
中には、北海道では共通語では現在形
で言う場面でも、過去形でいうケース
があると指摘する者もいるので、梶原
氏が「よろしかったでしょうか」とい
う言い方は、北海道発信ではないかと
推測されているのは、案外、的を得て
いるかも知れません。
 
 ちなみに、むかし、英語文法で習った
助動詞の現在形の”can”ですが、過去形
の”could”にすれば、丁寧形になることは
よく知られています。例えば、”Can you
come with me? “ とあるのを “Could you
come with me?” と言えば、きちんとした
丁寧形になります。また、"will"と"would"
でも同じ使用例がありますが、このよう
な現象は偶然の一致でしょうか?
 
<参考> 梶原しげる著『そんな言い方
    ないだろう』(新潮新書、2005)
 
アナミズ (2024.03.24)

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