100倍、身につく国語力(290)シナリオ篇
❤小~高校生と、母親向けのレッスン
(1年間で国語力の悩みが解決できる!)
<映画の活用用>
日本語教育でのシナリオの
効果的な活用法 (3)
3.教材化が可能な場面
この『お早よう』の作品の中から教材
化が可能な場面は幾つもあるが、その中
でも特に基礎的な日本語の学習にふさわ
しいものとして次のような場面が考えら
れます。それは子どもたちが親にテレビ
を買ってくれるように駄々をこねる場面
です。これは、今の日本では一家に何台
もテレビがある、豊かな日本の家庭生活
では考えられないシーンとなっています。
(55)「茶の間」のシーン
敬太郎(夫)と民子(妻)が
来る。
敬太郎(子供達を見て)
「何してンだ」
子供たち、答えない。
民 子 「仕様がないのよ、
ほんとに」
敬太郎 (子供の方へ)
「どうした?」
民 子 「あたしの云うこと
なんにも聞かない
のよ」
敬太郎 「なんだい」
民 子 「いけないいけないって
いうのに、なんかって
いうとすぐお隣へテレ
ビ見に行くのよ。今日
だって……」
実 「だから、うちでテレビ
買やいいンじゃないか」
民 子(敬太郎に)
「今日だって英語に行っ
てるもンとばっかり思っ
てたら、またズーッと
お隣なの。行きゃしない
のよ。ほんとに困っ
ちゃう」
実 「だったら買っとくれよ」
勇 「買っとくれよ」
民 子 「駄目駄目」
実 「じゃ、いいやイ、明日
だって行くよ、お隣り。
見たいんだから仕様が
ないじゃないか!」
勇 「僕だって行くよ」
民 子「いけないッたら、わかン
ない子ねえ!」
実 「わかンなくったって
いいんだいイ!どっち
がわかンないンだイ!
うちにないから見に行
くンじゃないか!
いきたいからいくン
だイ! うちで買って
くれりゃ見に行きゃ
しないやイ!見たい
から行くンだイ!」
敬太郎(おこる)
「うるさいッ!」
民子 「いい加減にしてやめな
さい! お父さんに
おこられるとこわい
わよ!」
実 「こわかねえやイ!ヘッ
チャラだイ!」
敬太郎「黙ってろ、うるさいッ!」
実 「うるさかねやイ!そんな
ことこっちの自由だイ!」
敬太郎「こらッ!(と襟首を掴
まえて)何云うッ!」
実 「何すンだイ! 放せよッ!
放しとくれよ!」
敬太郎「大体お前は口数が多い。
おしゃべりだ。やめろッ
てッたらやめろ!」
と突き放す
勇 「ぼく、さッきからなん
にも云わないよ」
敬太郎「大体お前たち、なんだ!
いつまでも一つことグツ
グツ、女の腐ったみたい
に!(→この部分は現在、
差別語なので、要注意
です)子供のくせに余計
なこと云いすぎる!
少し黙ってみろ!」
民 子「ホラ、ごらん、おこられ
たじゃないの」
実 「余計なこッちゃねえやい!
ほしいからほしいッて云っ
てんだイ!」
敬太郎「それが余計だっていうん
だ!」
実 「だったら、大人だって余計
なこといってるじゃないか。
コンニチハ、オハヨウ、
コンバンワ、イイオテンキ
デスネ、アアソーデスネ…」
敬太郎「馬鹿ッ!」
実 「アラ、ドチラヘ、チョット
ソコマデ、アアソーデスカ、
そんなこと、どこ行くか
わかるかイ。アアナルホド、
ナルホド、何がナルホドだ
イ!」
敬太郎「うるさいッ! 黙ってろッ!」
実黙って父を見返す。
敬太郎「男の子はペチャクチャ
余計なこと喋るんじゃ
ない! ちと黙ってて
みろ!」
実 「アア、黙ってるよ、二日
でも三日でも……」
民 子「アア、その方がいいわ。
お母さんも助かるわ」
勇 「百日でもだよ」
敬太郎「アア、アア、黙ってろ
黙ってろ」
実 「オイ、勇、来い!」
と勇を促して自分たちの部屋へ
去る。
民 子「ほんとうに仕様がない
……」
敬太郎、そこで初めて服をぬぎ
かける。
このシーンは、テレビを巡って父子の
言い争いになるところであるが、長男の
実が大人の挨拶について批判的な意見を
ぶつけるセリフは次のように、
実「だったら、大人だって余計
なこといってるじゃないか。
コンニチハ、オハヨウ、
コンバンワ、イイオテンキ
デスネ、アアソーデスネ……」
敬太郎「馬鹿ッ!」
実「アラ、ドチラヘ、チョット
ソコマデ、アアソーデスカ、
そんなこと、どこ行くかわ
かるかイ。アアナルホド、
ナルホド、何がナルホド
だイ!」
となっており、ここのセリフはそのま
ま教材にすることができる。しかもこの
シーンの父子のやりとりが実に面白く、
そのまま学習者にみせるときずっと理解
しやすくなります。
❤この場面は、日本人の無意識
の儀礼的な挨拶に対する痛烈
な批判(特に台詞の太字の
表現)になっていることも
わかるでしょう。日本人の
日常の挨拶コトバをこれほど
明確に取りあげた映画は他に
例がなく、逆に一般の日本人
にとっても、考えさせられる
場面ではないでしょう。
アナミズ (2024.11.30)