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100倍、身につく国語力(213) 作品篇

 ❤小~高校生と、母親向けのレッスン
 (1年間で国語力の悩みが解決できる!)

 杉みき子の作品について (13)

5. 杉氏の人間性の作品への影響
 杉氏は、自身の生活空間や環境をとて
も大切にしており、だれにも侵されない
神聖な場所と考えているふしがあります。
それは、彼女が新潟県の高田に生育した
ことから、雪国独特の静寂で落ち着いた
町の佇まいが何者にも変えられないと
よい公言しているくらいだからです。

 高田市は新潟県西部(上越地方)にあっ
たのが、現在は上越市南部に属してい
ます。江戸時代初期に、徳川家康の六男
の松平忠輝が居城として高田城を築いて
以来、高田藩の城下町として栄ました。
高田市内のほぼ中央に、高田城跡が公園
として整備され、その中には博物館、
図書館(中に小川未明記念館がある)、
小林古径邸、忠霊塔、高田高校、グラン
ド、野球場などがあり、春の公園内では、
桜の並木道のある名所となっているの
です。

 この高田市の周辺地域は、豪雪地帯と
して知られ、昭和20年(1945年)の冬には
377cmの積雪を記録したことがあるよう
です。道路沿いにある雁木(がんぎ)と呼
ばれるアーケードの軒先は、今でも独特
の町並みとして健在です。

 ちなみに、今年の4月に筆者が主宰す
「子ども作文教室」(注7)の講師たち
が、高田への一泊旅行を計画し、その
土地の人々や風景などに直接触れ、文化
や歴史的建築物などもつぶさに見学する
ことができ、杉氏が現在も居住する町の
雰囲気を感じ取ることができました。
その折、失礼を顧みずにせっかくの機会
を活かすため、杉氏の家の前までいき行
きました。私たちのだれもが、この家に
敬愛する著名な児童文学者がいらっしゃ
ると考えるだけでも感無量でした。

 (注7)「子ども国語教育学会」が
   主催する作文教室で、2018年に
 電気通信大学(東京都調布市)
 の100周年記念ホール内で開設
 され、毎月隔週の午前と午後に、
 約40名の小・中学生に作文や
 読書指導を有償ボランティア
 で行っている。

 それはともかく、杉氏邸からホテルへ
の帰路、近くにあるお寺の一角を訪れる
ことになりました。この地域は「寺町」
と呼ばれ、何と道路の全長2kmにわたっ
て大小のお寺が67もひしめき合っており、
まるでお寺の団地のように壮観である。
多くのお寺は敵から高田城を守るために
作られたとされ、お寺の門はほぼすべて
が高田城の方に向いているそうです。同
じ寺町に住む杉氏は散步コースとして、
恐らくこの寺町区域には頻繁に立ち寄っ
ていると考えられます。

 ちなみに、「お寺」については『小さ
な町の風景』にほとんど記述されていな
いが、3箇所だけあって決して多いとはい
えません。

ネットの写真より転載

 まず4章の「おぼろ月夜」に、

  「この角をまがれば、すぐ家。
  その、角のお寺に立っている
  大杉が、なんだかおかしい」

 と書かれています。これは、
 
  「ある晩、そろばん塾帰りの
  少女が、お寺に立っている杉
  の木の様子が変なので、よく
  見るとカラスの大群が枝に群
  がっていたが、翌朝になると
  跡形もなく姿を消していた。
  実は、新聞によると、佐渡の
  珍鳥トキを保護するために、
  天敵と見られるカラスを毒殺
  する計画が開始されたことを
  知った」
 
  という内容になっています。

 ただ、このお寺が67のお寺のどれをさ
しているのかについて特定することは難
しいが、お寺の境内で見た異様な光景か
ら、杉氏の「カラスを守ってあげたい」
という深層心理から自然に生じた表現と
なったのでしょう。

 次に、同じく4章の「至福の季節」に
は、

  「ここかしこの小路は、年にいち
  どのよそおい。大通りの喫茶店の
  となりで、子どものかけこむ路地
  うらで、大寺の境内の片すみで、
  川ぞいの並木道で、そっとかなで
  られるしずかな音楽」

 と書かれている箇所に、杉氏の自然界
に身を置く幸福感が反映されている。さ
らに、同章の「雪くる前」では、

  「お寺の森では、いちょうの葉
  がすっかり落ちた。杉たちだけ
  が、しんとしずまりかえって、
  参道に長い影を落としている」

 とあるが、静寂な寺の境内の雰囲気が
よく出ています。これも多くある寺の中
のどれを指しているのか、直接、作者に
聞いてみるしかないと思われます。

ネットの写真より転載

 ❤杉氏の故郷である高田市に
  たいする強い郷愁は、伊丹
  末雄氏との共著による
  『雪の高田物語 ー城下町の
  散策ー』(図書刊行会、1975.
       02.25)という随筆集
を読めば
  よく理解できます。

 アナミズ (2024.09.12)

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