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100倍、身につく国語力(224) 作品篇

❤小~高校生と、母親向けのレッスン

 (1年間で国語力の悩みが解決できる!)
 
 漱石の『夢十夜』について (5)
 
3. 中3のO君の200字作の添削例
 O君は、現在高3の大学受験生ですが、
入試勉強の忙しい最中にもかかわらず、
『夢十夜』の要約文を快く引き受けて
くれました。実は、筆者はO君が小学生
のころより作文の指導をしてきた経緯
があり、中3のとき、既に『夢十夜』
の10話を全部要約文にしてもらった
ことがあります。
 
 彼の学習能力には、目をみはるもの
があり、この『夢十夜』を精読する
ことにより、文学に対する理解力を高
めるだけでなく、作品の背景にある
人間の考え方や生き方に興味を持ち、
国語という得体の知れない科目に自信
をもつようになりました。その一端を
知る意味において、中3から3年間と
いう時間の経過の中で、どのような
変化があるのかを調べることにしたの
です。その結果やはり分析する
価値があると思われるので、以下に
引用することにします。
 
【第一夜】
 ①   中3 の要約文
  こんな夢を見た。私は枕元
  に座っていると仰向きに寝て
  いた。女がもう死ぬといった。
  彼女は美しく死にそうには
  思わなかったが死ぬのかと
  問いかけても死ぬと答えた。
  しばらくして彼女は墓に星
  の破片を墓標にして傍で百年
  待っておいて欲しいと頼まれ
  た。また、彼女は百年後に会
  いに来るという。そして彼女
  は亡くなったため私は彼女の
  いう通りにし、長年の間待っ
  た。
  そして、ある日ふと遠い空を
  見たら、暁の星が1つ瞬いて
  いた。その時百年はもうきて
  いたのだと始めて気付いた。
          (220文字)

ネットのイラストより転載 

 ②   高3の要約文  
  こんな 夢を見た。腕組みを  
  している私の前に美人の女が  
  仰向けに寝ていて、死ぬと言っ  
  た。死にそうには見えなかった  
  ので私は不思議に思った。する  
  と女は死んだら埋めてくれと  
  たのんだ。そして女は百年間  
  待ち続けられるのかと問うた。  
  私はできるとえたら、女は涙  
  を流して死んでしまった。私  
  は女の言う通りに埋め、苔の  
  上に座わった。月日が流れ、  
  百合の花が咲き、空には暁の  
  星が光っていた。百年は来て  
  いたと気付いた。(192 字)  

 <講師の要約文>     
  今まさに死のうとしている美女  
  の枕もとに、一人の男が座って  
  いる。女は自分がもうじき死ぬ  
  と言い張るが、まもなく死に  
  そうにはとても見えないみず  
  みずしさである。男と女はその  
  親しい様子から恋人同士のよう  
  だ。しかし、主人公の感情は  
  淡々としていて、恋人が死ぬ  
  ことを悲しむような感情描写は  
  いっさいない。  
  女は死ぬ前に不思議な遺言を  
  残す。それは女の墓のそばで  
  待っていれば、百年後にきっと  
  逢いに来るということだった。  
  男はその言葉を信じて待って  
  いたある日、暁の星が一つ瞬  
  くのを見ると、百年は過ぎた  
  のだと気づいた。 (245字)  

 上のO君の中1と高3の要約文を比べる
と、さすがに3年間という時間の経過や
経験の積み重ねを感じさせられる。最も
顕著なのは、高3のO君は文章全体に
整然とした落ちつき感があり、もう大人
としての成熟感を抱かせる。

ネットのイラストより転載

 なぜなら、中3の文章は、話の内容を
そのまま辿っているのに対して、高3の
文章はそれが集約され不必要な部分が削
ぎ落とされているからではなかろうか。
例えば、下線を引いた部分はかなり自然
な表現であり、中3の文章に比べて洗練
されています。一般的に、文章を簡略に
するのは、極度の抽象化が求められる
作業が必要です。そのためには話の内容
に沿って雑然と書き出すだけでは、いわ
ゆるすっきりした制約の文章にはなら
ないからです。
 
 ちなみに、講師の要約文は少し内容が
盛りだくさんで、詳しくなり過ぎて冗長
気味にさえなっています。さらに、O君
の要約文はいずれも200字前後であるの
に対して、講師の要約文 は200字を優に
超えており、どうみてもO君の要約文の
方が優れていると評価せざるを得ません。
 
 しかし、敢えて付言すれば、筆者の
ような傾向は、マンガ『コボちゃん』を
200字の作文にする場合にも顕著にみら
れます。小学生はマンガを読むとすぐ
書き始めるが、大人はなかなか書き出
そうとしません。


 ❤これは恐らく成人は知識や
  経験に恵まれており、いろ
  いろな場面や情報に遭遇して
  いるため、あれもこれも書
  こうとする傾向があります。
  しかし、子どものは大人と
  違ってほとんどの場合、すぐ
  に書き出そうとします。長年
  作文を教えていると、この
  両者の特徴は変わらないこと
  に興味がつきません。
 
 アナミズ (2024.09.23)

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