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100倍、身につく国語力 (37) 語句篇

❤小~高校生と、母親向けのレッスン

(1年間で国語力の悩みが解決できる!)

語句篇 ②
  
【女性語からみた日本語】
 
1.日本語特有の女性語の特徴
 
(2) 気になる「女性語」の表現
 日本語には古くから、女性語の存在を
意識していたという文献が残っています。
その一つは、平安時代に活躍した女性
作家の清少納言(せいしょうなごん)が、
『 枕草子まくらのそうし)』の第4段の
中で指摘しているので、その部分を引用
してみましょう。
 
【同じことなれども】
  おなじことなれども聞き耳こと
  なるもの。法師の言葉。男の
  言葉。女の言葉。下衆の言葉
  にはかならず文字あまりたり。
  それこそおかしけれ 
 
【現代語訳】
  別々のものにたとえると、次の
  ようなものがある。坊さんの
  ことば 男と女のことば 身分
  の低いもののことばに余計な 
  ことばが必ず加わっているもの
 
 とありますが、清少納言は上にある
ように同じ内容には違いないけれど、聞
いた感じの違うものがあり、坊さんや
男女の言葉が、あると指摘しています。
また、身分の低い者にはなくてもよい
文字が必ず加わっているとしています。
 
 この「同じこと」の「こと」は「事」
と見る説もあり、同じ意味・内容ともされ、
「文字」は言葉の数を意識した言い方と
も考えられます。いずれにしても、聞き
手の立場によって受け取り方が違うと考
えていたことが分かります。
 
 ところで、今世界のいくつかの言葉に、
女性語があるのかどうかを見てみましょう。
 
 ① 英語
   →日本語のような性差を表す
    言葉は、ほとんどないよう
      です。ただ、次のように女性
    は男性に比して強調する傾向
    があるようです。

   ・Thank you very much.
     (男性が好んで使う)
   ・Thank you so much.
     (女性が好んで使う) 
   ・I like him so much.
     (彼のこと大好き)
   ・It is so lovely.(素敵だわ)
           ・Oh great!(まあ、すごい!)
           ・It’s cute!(かわいい!)
 
 ② ドイツ語
   →性別による差はない。ただ、
    断定を避けるために、次の
    ような言い方をす傾向がある
    ようです。

   ・そうじゃないかしら。
   ・そうじゃない?
   ・あなたも…思いませんか?
   ・ほんの思いつきですけど
   ・ここにいていただけません?
 
 ③ フランス語
   →性別による差異はほとんどあり
   ません。ただ、呼びかけには次
   のような違いがあります。

   ・ムッシュ
   ・マダム
   ・マドモアゼル

 ④ 中国語
   →昔は人称代名詞に違いがあった
    ようです。男女の自称詞は次の
    ようでした。

    ・吾、予、余、僕、
    ・妾(既婚)、女(未婚)
        
 しかし、1919年の「 五・四運動」の
白話(はくわ)運動(うんどう)<中国におけ
る口語に基づく書きことばを広める運動>
以降、男女の人称代名詞の違いはなく
なりました。その結果、現代中国語では
自称は「我(wo」、他称は 「你(ni」に
なりました。ただ、感動詞や終助詞には、
女性特有の使い方があり、しかも、女性
は音域差が豊かなので、それで女性らし
さが発揮できるようです。
 
 ちなみに、大西洋とカリブ海を分ける
小アンチル諸島のカリブ族は、男性と
女性が全く別の言葉を使っていたそう
です。

 それは、カリブ族が小アンチル諸島に
攻め入り、そこに住んでいたアラワク族
の男性を皆殺しにして、残っていた女性
たちと結婚したからだといわれています。
そこで男性はカリブ語という大陸の言葉
を使い、女性はもともとあるアラワク語
を使ったことにより、別々の言葉を使用
する結果になったようです。


 
 さて、平安時代を代表する清少納言が、
奇(き)しくも指摘している女言葉の特徴は
定かではありませんが、長い歴史の中で
培われてきた女性語には、およそ次のよう
な傾向があるといえます。
 
 ①  女性特有の感情や感性を表す
   言葉を使う。
 ②  漢語などの固い言葉、野卑(やひ)
   で下品な言葉を避ける。
 ③  感動詞、間投助詞、終助詞など
   の強意語を多く使う。
 ④  敬語的表現、丁寧な言い方をする
   表現が多い。
 ⑤  女性は音域(おんいき)が高いので、
   豊かな表現ができる。
 ⑥  イントネーションや音の強弱など
   の変化に富んでいる。
 
 これらの特徴は、女性の生理的、感情
的な条件から自然に生じる面もあるし、
女性の社会的、家庭的な地位・環境や
伝統的な在り方に根差(ねざ)すものも少
なくないと思われます。
 
 こうしてみると、日本語には女性特有
の女性語が多く見られますが、これは
性差だけでなく、日本語の場合は年齢、
職業、地域などの要素が加わり、さらに
話し言葉や書き言葉など、様々な要因に
よって、女言葉が発達していったといえ
ます。

 日本に住む女性は、長い時間をかけて
女性語を作り上げ、複雑な人間関係に優
れた潤滑油としての効果を、本能的に
体得しているからこそ、それが母から子
へ連綿(れんめん)と継承されてきたので
しょう。
 
 その結果、女性語は現在も様々な分野
で、潤滑油のような働きをしており、
それは世界の言葉と比べても稀(まれ)な
現象だということは確かのようです。
しかも、それは日本社会の中で、確たる
地位を得ているのは「女らしさ」という
概念が、背後からしっかり支えられて
いるような気がします。
 
❤しかし、女性語は女性自らも好んで使
うものではなく、社会的、伝統的な制約
の下では、無理やり使わわざるを得ない
状況であるとすれば、そこに気になる
問題があるかも知れません。 

<参考> 高橋 巌著『 日本語の女
     ことば』(高文堂出版)
 
アナミズ (2024.03.19)

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