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1989年7月24日(月)
【熊大生協:榊 麗美・山野 紗里】
「へー、麗美もそういうところあるんだ」
「どんなイメージなのかは知らないけど」
少しびっくりした表情を浮かべながら発した山野 紗里の言葉を聞いて、榊 麗美が軽く笑いながら答えた。ここは『熊大生協』。ランチを食べにやってきた榊と山野だったが、大音量で流れてくる例の音楽に榊が興味を示しているようなので、山野が感想を述べたのである。山野は大学に入ってから榊と出会い、初めのうちはあまり交わりがなかったが、2回生になって同じ研究室になったので、次第に仲良くなった。山野はどちらかというと明るく活発な性格をしており、榊は控えめで大人しい感じで非常に真面目であり、あまり冒険をおかすようなタイプだとは思っていなかったのである。
「私も詳しくは知らないけどあまり良い噂は聞かないよ」
「でも、何か面白そうな気がするのよね。直感だけど」
そのように言葉を発した榊を見て山野は今までのことについて思い出した。榊は何かを選択するときに直感を非常に重要視するのだ。買い物や映画など、今まで一緒に何かを選ぶときに榊は確かに直感で選んでいた。
「麗美が直感でそう思っているなら止めないね。でも怪しいと思ったらすぐに止めるんだよ」
「わかったー」
そう返事をした榊はオレンジジュースを口に運び、ゆっくりと飲み込んだ。