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1991年3月19日(火)

【罠解除士鍛錬場:四谷 謙詞・真田 美和・森 瑠美】
「今日も富田くんはいないわね」
「レアキャラになりつつありますね」
 鍛錬を開始した森 瑠美が漏らした言葉を聞いて、四谷 謙詞が笑いながら返事を返した。ここは午前中の罠解除士鍛錬場。本日もたくさんの魔術師が鍛錬を行っている。冒険者の一般的なタイムスケジュールは午前中探索を行うか鍛錬場で鍛錬を行い、午後からは大学の講義を受けるという流れである。探索は週1ペースなので、残りの平日4日間は鍛錬場にいるということになる。とするならば、理論上同期のメンバーには週に3日は顔を合わすはずである。だが富田は多田隈 五月の待機業務に付き合っているので、探索日の月曜日と多田隈が待機業務を行う日は鍛錬場に現れない。こうなると実質週に1〜2回しか鍛錬場に来ないことになり、その日に自分が探索を行うならば、ほとんど会うことがなくなるということなのである。このなかなか出会わないという状況を四谷がレアキャラと評したのである。
「研究室が違うから大学でもほとんど会わないんだよな」
「まあ富田くんはそもそも大学行ってなさそうだけどね」
 鍛錬場以外での富田との遭遇率について四谷が考えを述べて、それに真田が言葉を続ける。四谷と富田は文学部史学科であり、2回生時に四谷は西洋史、富田は東洋史の研究室に進んでいる。研究室は違うといえども同じ講義はあるはずなのであるが、そこで富田の姿を見ることはない。なぜ見ないのかは想像の範囲ではただサボっているのであろう。
「でも何だかんだで富田くんの実力には敵わないんだよねー」
「罠解除だけでも何とか追いつきたいところだな」
 ため息をつきながら真田が言葉を漏らし、意を決した表情で四谷が覚悟を口にする。罠解除士としての富田の実力は何故かはわからないが突出して高い。特に亜獣探知に置いては全くレベルの違う実力を持っている。ただ、罠解除能力に関してはそれほどの差はなさそうなので、こちらに関しては追いつき追い越したいと考えている四谷なのであった。

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