1990年7月14日(土)
【六文銭:前田 法重・川崎 志郎・菊川 竜二】
「何だ大石は付き合い悪いな」
六文銭のテーブル席に座りながら前田 法重はこう呟いた。午後7時を回ったぐらいの居酒屋『六文銭』。本日は前田と川崎 志郎、菊川 竜二、大石 泰三の4人で飲む予定だったが、急遽大石が彼女の都合で来れなくなったと菊川に連絡が入った。そこで仕方なく3人で飲むことになったのである。
「大石って彼女とまだ別れてなかったんだ」
「怒られるぞ」
生ビールを注文した後、前田が口にした言葉に、菊川が突っ込む。大石の彼女はもともと大石が高校の同級生たちと一緒に遊んでいた時に、誰かの友達として一緒に来ていた女の子である。その女の子が大石に一目惚れし、付き合うことになった。その女の子はルックスは非常に可愛らしく、当初順調に付き合いを重ねていたが、しばらく付き合って、その彼女が少し変わっていることに気づく。いわゆるメンヘラである。大石は彼女に対して愛情はあるものの、付き合うこと自体に疲労感を感じるようになり、前田や菊川に別れるかどうかの相談を数回持ちかけている。しかし、現在も交際は続いているようだ。
「彼女がいるといるで面倒やな」
「まあ、彼女によると思うけどね。乾杯」
店員が生ビールを持ってきたタイミングで前田が言葉を発し、それに答えた川崎がついでに乾杯の音頭をとって、飲み会がスタートした。