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1991年8月2日(金)

【冒険者組織本館:合同葬儀】
 本日8月2日金曜日。冒険者組織本館8階大ホールにて、昨日迷宮で命を落とした三木 浩司・東堂 静馬・神田 多香美・黒田 颯太の合同葬儀が行われている。葬儀には別れを告げる多くの親族や冒険者組織の仲間、友人などが訪れている。冒険者組織で初めて行う葬儀であるが、大田 誠を中心に、組織全員協力で粛々と執り行い、大きな問題が起こることもなく式を終えた。この後、最後の別れを行った後、各自帰路へとつくことになる。今後のことについてはまだ課題が山積みであるが、ひとまず合同葬儀が無事終わったことに一安心する。

【熊大病院:佐々木 雅美・藤原 静音・山村 静香・山口 可奈】
「倉本さんは一般病棟に入院中で、たまに意識が戻ることもあるようですが、まだほとんど意識がない状態で面会もできません。扇くんは手術は成功して、集中治療室にいます。詳しい状況についてはまだ説明を受けてません」
 現状を佐々木 雅美が山口 可奈に報告する。ここは熊大病院。本日午前中に合同葬儀が行われたが、佐々木と藤原 静音・山村 静香は葬儀には参加せず、病院で状況を見守る役目を追っている。葬儀が無事終了し、教官を代表して山口 可奈が病院を訪れ、状況を確認したのである。
「わかった。引き続き頼むわね。ちゃんと交代で休みは取るんだよ。あと、葬儀は無事に終わったわ。一応伝えておくと、探索は一旦無期限で停止。ただ組織活動は継続するので、月曜日から鍛錬場とかの施設は引き続き利用できるわ。まあ、冒険者続けるならだけどね」
 そう言って山口は手帳に何やら記載を行っている。今まで小室ファミリー部隊が全滅し、4人の命が亡くなったのと、2人が重症を負ったことで考える余裕がなかったが、今の山口の言葉で自分らが今後どうするのかも考えないといけないと3人は思案を始めた。

【道:前田 法重・原田 公司・富田 剛・多田隈 五月・大塚 仁・本田 仁】
「無期限ってどれくらいなんかな」
「あまり長いと辛いですよね」
 ビールを注いでもらいながら発した前田 法重の言葉に大塚 仁が反応する。ここは居酒屋『道』。本日は土曜日であるが、店内は落ち着いた雰囲気になっている。本日午前中葬儀に参加した後、基本的にはゲームセンター『スタジオ』で時間を潰した前田、原田 公司、大塚、本田 仁は18時ぐらいから『道』で飲むことにした。その後、富田 剛と多田隈 五月が合流し、今の状況になっているのである。冒険者組織から探索については一旦無期限で停止との通達があり、その無期限さについて話題にしているのである。
「冒険者の命が危ないっていうのはそれこそ1番初めの説明会でも言われてたことですからね」
「言われたー」
「だったな。だから想定をしていなかったわけじゃないから、あらかじめこの事態も考えていたと思う。なので、そんなに無期限になることもないんじゃないかな」
 かなり昔であるが、1期生募集の時に冒険者が命を落とす可能性の説明を受けたことを富田が説明し、それに多田隈が反応した後、原田が感想を述べる。2期以降も恐らく冒険者が命を落とす可能性については説明があったのであろうが、やることが全く不鮮明であり、前例がないことを自分たちで開拓してきた1期生に比べると、その恐怖感は少ないものだったと予想される。1期の冒険者たちが実際全員生きており、迷宮の情報なども提供していたからだ。
「今後どうなるかね。これで引退するやつも出てくるかな」
 少し沈んだ雰囲気で前田が言葉を漏らし、続けて言葉を発する。
「お前らはもちろん辞めないよな?」
 この言葉を聞いて全員がお互いの顔を見つめる。しばらく沈黙が続いた後で原田が口を開く。
「辞め」
 この言葉を聞いて富田と本田が続ける。
「ま」
「すん」
「辞めるんですか、辞めないんですかどっちですか?」
 完璧なタイミングでの大塚のツッコミを聞いて場の雰囲気が少し明るくなった。

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