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1991年8月22日(木)
【熊大病院:扇 開次・山村 静香】
「静香、ごめんね。見舞いに来てもらって」
「何言ってるの開次。当たり前でしょう」
弱々しい扇 開次の言葉に、山村 静香が元気に言葉を返す。ここは熊大病院。扇の病室である。約1ヶ月集中治療室に入っていた扇だが、昨日一般病棟に移ることができ、面会も可となっている。扇の状況に関しては医者からあまり説明を貰えていなったが、本日山村が見た感じ、あまり深刻な状況であるようにはみえない。両手両足も動くようであるし、意識もしっかりしている。しかし、倉本 華同様に記憶障害はあるようであり、なぜ自分が入院しているのかは理解しておらず、冒険者になってからの記憶が欠損しているようだ。
「でも本当に開次が無事でよかった。もし何かあったら私耐えられなかった」
「大袈裟だなあ。大丈夫だよ。それに俺に何かあっても静香はちょっと寂しくなるぐらいのもんだよ」
少し涙を浮かべて話す山村に弱々強い笑顔を浮かべながら扇は答える。この1ヶ月扇が集中治療室に入っている間、山村は扇に対する自分の気持ちを真剣に考えてみた。先日扇から尋ねられた時に答えたように、これまで自分は幼馴染としか思っておらず、恋愛感情と呼べるものは全くなかった。だが、扇が集中治療室に入っている1ヶ月、人生において扇とこれほど離れることがなかったので、自分の中で扇の存在が思っているよりも大きいものであることを痛感する。幼馴染という関係以上に大事な存在だと気づいたのである。
「とにかく、開次が元気になるまで、ずっと一緒にいるからね」
「何か嬉しいこと言ってくれるね。たまには入院するのもいいもんやな」
嬉しい表情で扇は優しく言葉を発する。山村は本当は元気になってからもという言葉も発しようとしたが、今はそこは自制することにした。