1990年10月31日(水)
【魔術師鍛錬場:本田 仁・菅野 芳江・太田黒 佳美】
「あ、本田君、光球出来てる!おめでとう〜」
本田 仁の右手の手のひらの上に浮かんだ光球を見つめて、菅野 芳江は驚きが混じった笑顔で叫んだ。ここは魔術師鍛錬場。本日も多くの冒険者が鍛錬を行なっている。手のひらの課題を行なっていた3期冒険者達であるが、本日本田が1人目の課題合格者となった。
「ありがとう。そうか、そういうことか」
菅野に声を返した後、本田は何かを悟ったようにつぶやく。神妙にしている本田の表情を覗き込んでいた菅野は何と言ったのかを聞き取れなかった。
「出来てしまえば簡単なことだよ」
そう言いながら本田は左右両手の掌を広げて、交互に光球を出したり消したりしていた。
「すごい、何かコツってあるの?教えて〜」
「なかなか言葉にするのは難しいけど、可能な範囲で教えるね」
目の前で飛び跳ねながら教えて欲しがっている菅野に、本田は優しい表情でこう答えた。この後、本田が手のひらの課題をクリアしたのを聞いた太田黒 佳美がやってきて、次の課題である空間での光球の発現と、空間の歪みの発生について3期生達に説明を行った。
【ハイライト:山口 可奈・太田黒 佳美・元木 美麗・加藤 愛奈】
「あ、本田君今日手のひらクリアしたんだ。うちが一番だと思ってたのに」
ウイスキーの水割りが入ったグラスをテーブルに置いた後で山口 可奈がこう言った。ここはスナックハイライト。本日はお客も少なく、落ち着いた雰囲気が漂っている。いつもの奥のボックスに座った冒険者組織の4人は、3期生の課題進捗を話題にお酒を楽しんでいる。
「指先の光も本田君と大塚君が初日にクリアしていたから手のひらも最速はどちらかかと思っていたけど、まさか手のひらも同日とはね」
そう言って太田黒 佳美は赤ワインを口に運び、グラスに入っている液体を飲み干す。
「ワンチャンうちの広巡君の可能性もあるかなと思ってたんだけどね」
店員さんが持ってきたソルティードッグを受け取りながら加藤 愛奈が悔しい表情を浮かべる。実際、加藤の見立てだと広巡も今日か明日にはクリアできると思っていたのだが、本日光球の発現は出来なかった。
「まあまあ、それにしても3期はレベル高いんじゃないの?1期と比べても・・・富田君は別格として、かなり早い進捗だと思けど」
そう言った後、元木 美麗は店員を呼んでライム酎ハイを注文する。実際3期の後衛職のレベルは高い。1期と比較しても富田を除けば明らかに上、2期とは比べ物にならない状況である。
「そうね。後衛職の比較だと2期はもちろん1期よりも能力は高いというのが、現段階の評価になるわね。戦士はどうなの?」
「うーん、戦士は総合的には1期が一番能力高いと思うけど、最強比較ではもしかしたら3期の町田君になるかもしれない。技術的には1期の村川君や右田さんが抜けてるけど、体格的なポテンシャルが大きすぎて全てを凌駕するかも」
太田黒の質問に真剣な表情で答えた元木はポッキーに手を伸ばし、口に運んだ。