1991年3月4日(月)
【冒険者組織会議室:黒髪てへろく部隊】
「では早速今日から潜るのですが、まだはっきりと挨拶もできてないので、順番に挨拶をして親睦を深めましょう」
副隊長の原田 公司が言葉を発して、挨拶会が始まりを告げた。
「まず俺から、右回りで順番に行きましょう」
前田 法重が言葉を発して、挨拶を始める。
「隊長の前田 法重です。4回生です。避ける系の戦士です。好きな食べ物はあんぱんだ!よろしく」
「副隊長の原田 公司です。3回生です。喰らう系の戦士です。趣味はゲームとカラオケです。好きな言葉は強者どもが夢の後です。よろしくお願いします」
「牛嶋 香織です。3回生です。避ける系の戦士です。前田さんと原田さんと一緒ということですごく緊張しています。あ、趣味は音楽とカラオケです。あんぱんも好きです。頑張りますのでよろしくお願いします」
「村田 健です。3回生です。僧侶です。趣味は特にないのですが、強いてあげれば用もなくブラブラと歩き回ってます。大石さんには及ばないところもありますが、頑張りますのでよろしくお願いします。」
「多田隈 五月です。2回生です。魔術師です。苗字で呼ばれるのがあまり好きじゃないので、めいちゃんって呼んでください。私も新しい部隊になって緊張してますが、よろしくお願いします。」
「富田 剛です。2回生です。罠解除士です。どちらかというと気配探知系です。座右の銘は飲む、打つ、買うです。とみたんと呼んでください」
全員の挨拶が終わり、全員がお互いを見つめている。その中で原田が疑問に思ったことを口にする。
「富田良くとみたんって呼んでくださいって言ってるけど、実際に呼ばれてるの聞いたことないんだよね。トミーと呼ばれるのは聞くけど。誰か呼んでるの?」
「誰も呼んでくれないですよ。だから言い続けてます」
「じゃあ私呼ぶねー。とみたん!」
原田の質問に富田がお約束の回答をしたが、その後満面の笑顔で多田隈がとみたんと呼んだので富田は多少ときめいた。
【熊大迷宮:黒髪てへろく部隊】
「俺は天才だー、覚悟はいいか」
「やっぱりかかってくるか。原田、牛嶋さん。いくぞ」
天才が戦う気満々なのを見て、前田 法重が原田 公司と牛嶋 香織に指示を出す。ここは熊大迷宮地下2階。部隊を再編成して初めての探索である。前田と原田は川崎 志郎と一緒に天才をクリアしているのだが、メンバーが牛嶋に変わったので天才がどう反応するかを試しに来たのである。結果天才は戦いを望んでいるようだ。
「基本的には牛嶋さんがメインで俺と原田はフォロー。牛嶋さんの成長を第一に考えるぞ」
「わっかりましたー」
前田の指示を原田は理解し、基本的には牛嶋対天才の図式を作り、前田と原田で危ない際にフォローを入れる。牛嶋は現在の力量では天才に1対1では敵わないのは理解しているが、前田と原田が完璧なフォローをしてくれているので安心して実力を出せている。そうこうしているうちに天才は消滅し、ホッとする牛嶋に前田と原田がGJのポーズを出す。
「物質回収します」
戦闘の後なので、富田が物質を回収するのはいつものことだが、何かいつもと雰囲気が違う。これはもちろん今まで同じ部隊だった前田と原田だけが感じた違和感である.
「富田どうかした?体調でも悪い」
物質の回収を終え、富田が戻って来たので原田がこう尋ねてみる。
「どうしてですか?私はいつもと同じですよ。真面目に責務を全うしております」
どうみてもいつもと違う。いつものようにおどけたり冗談言ったり下ネタを言ったりということがない。部隊が変わったばっかりなので富田もまだ戸惑っているのだろうか。
「原田、多分女の子が部隊に入って来たから富田少し格好つけてるみたいや。ちょっとやりにくいから早いうちに本性を出させた方がいいな」
「わかりました。富田あんな所ありますもんね。早急に何とかしますね」
周りに気づかれないように前田と原田は相談し、この後の探索中、原田はどうするかを考えていた。
【道】
「あ、富ちゃんいらっしゃい。前ちゃんたち奥にいるよ」
おばちゃんの声が店に響く。ここは居酒屋『道』。本日探索後に原田 公司から8時に『道』集合と言われて、富田はちょうど8時に『道』にやってきたが、入った瞬間にある違和感が富田を襲う。8時集合と言われて8時に来たのだが、すでに奥の座敷のメンバー達は盛り上がっており、どう見ても8時飲み会開始とは思えない。なぜ自分は8時に呼ばれたのだろうか。富田は思案しつつ、奥の座敷を見る。向かって正面の席に原田 公司が座っており、左の壁側に前田 法重、その手前に大塚 仁・一番手前のいつもの席に本田 仁が座っている。この位置からは死角で確認できないトイレがある奥側の右側の席に姿が見えない谷口 竜一がいるのだろうか。そう考えていると奥から声が聞こえる。
「あー、富田お疲れ。ちょっとそこでストップ」
原田が富田が来たのを察して声をかける。声をかけられた富田はストップと言われたのでそこで足を止めた。
「何なんすかね?」
「いや、今クイズ大会やってたんで、富田にもクイズ出そうと思ってさ。じゃあ出題します」
別にここで立ったままじゃなくても良くねと富田は思ったが、まあ盛り上がっているならいいかということで言葉に従う。
「まず俺から。第一問。パソリンカットを説明しなさい」
奥から原田の声が響く。富田は問題を聞いて、これはクイズなのかと疑問を持ったが、仕方がないので回答する。
「パソリンカットとは光栄ストロベリーポルノシリーズ第一弾《団地妻の誘惑》というゲームで、避妊器具を販売しながら、団地妻を誘惑し、団地妻といたす際に局部部分を隠す物の名称です」
「正解。ちなみに富田はそのゲームやったことがあるの?」
「あるもないもやり込みマスターですよ」
富田の回答に原田は満足げである
「じゃあ次俺ですね。今富田さんは麻雀を打っています。対面の人が發をカンしました。富田さんは何と言いますか」
これもクイズじゃないなと思いながらも富田は仕方なく回答する。
「何や、アオカンや。お前アオカン好きやなー。エロいからなー」
「正解です。ついでに富田さんが起親で東4局が流れた時に何て言います?」
「挿入!」
大塚からの追加の質問に、富田は右手を素早く動かしながら言葉を発する。それを見て大塚は非常に満足そうである。
「では最後に私が」
そう言って本田が満を辞してクイズを出す。
「名作エロアニメ《黒猫館》に出てくる名台詞をどうぞ」
これはクイズではあるなと富田は思い、答えを口にする。
「己の心と書いて忌まわしいと読みます。己の心に従って、堕ちていくのが忌まわしいのなら、それもまた良いものですわ」
「正解です。ちなみに富田さんの好きなキャラクターは誰ですか」
「亜理沙タン1択ですな」
追加の質問を瞬時に答えた富田に前田が声をかける。
「富田お疲れ。こっち来ていいよ」
それを聞いて富田は奥に進んでいく。先ほどから感じていた違和感について考えながら歩を進めるとその違和感についての理由が判明する。右側の見えない席に座っているのが自分が想像していない人だったからだ。
「富田お疲れ。何かいろいろ聞いていたイメージと違うなって思ってたけど、やっぱりこっちが素なんだな」
「富田君。何ていうか、お疲れ様」
「とみたん、エローい」
右側の死角の席に座っていたのは村田 健、牛嶋 香織、多田隈 五月の3人だった。3人は富田から見えないように固まって座っていたので、少し席を移動し、富田は多田隈と本田の間に座った。
「で、どういうことなんですか」
ずっと思っている疑問を富田はおそらく主犯である原田に質問をぶつける。
「いや、今日の探索中富田いつもと違って全然面白くなかったから、俺と前田さんもやりにくくてね。富田も普段通りがいいと思うから、早く富田の本性を知ってもらおうと思って」
そう言いながら原田は大塚からビールを注いでもらっている。
「まあ、俺も思わなくはなかったですよ。でも今までは全員男で全員年上だったんで、俺がギャグとか下ネタ言って盛り上げないといけないと思ってたんですよ」
そう話していると多田隈がビール瓶を持ったので富田はコップを多田隈に向ける。
「でも牛嶋さんはともかくめいちゃんが入って来たので、少しクールに決めようと思ったんですよ。」
「ともかくってのは聞き捨てならないけど」
富田の言葉に牛嶋が軽く突っ込みを入れる。
「だから今まで探索中はスノープラスの気分でいたんですけど、今日からキータクラになろうと思ったんです」
「ウイングマンか。懐かしいな。それにしても今までがスノープラスで今日がキータクラって全然わからんかったぞ」
前田が富田の言葉に正直な感想を述べる。
「でも所詮俺なんてスノープラスなんですよね。キータクラになるのは無理なんですよね」
物悲しい表情を浮かべて富田がこう言葉を漏らしたので、場が一瞬沈んだ雰囲気となる。
「でも北倉先生がキータクラだとは俺も思わなかったですよ。カンパーイ」
大きく元気な声で富田が乾杯と叫び、みんなで乾杯と叫びあった。