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1990年11月13日(火)

【熊大生協:川口 耕輔・藤原 静音】
「いやー、今日もいろいろ手伝いありがとう」
「いえいえ、こちらこそご馳走様です」
 料理をテーブルに置いて椅子に座った川口 耕輔が声をかけ、向かいに座っている藤原 静音が笑顔で返事を返した。ここは夕方過ぎの熊大生協。講義を終えたたくさんの大学生達が夕食を食べにやってきている。川口は現在法学部の4年生であり、現在ゼミを受けながら卒業論文を書いている最中である。その論文作成に際して、同じようなテーマで来年卒論を書く予定である藤原が自分の研究ついでに何かと手伝ってくれているのである。それ自体は非常にありがたいことなので、帰りにはいつも夕食を奢ることがいわば約束となっているのである。
「そろそろ完成しそうなんですかね」
「そうだね。もう山は超えたから後は細かいところを修正するぐらいかな」
 最近の川口の様子を観察していて感じたことを藤原が質問し、それに川口が正直に返事を返す。卒論のテーマを決めるのが早かった川口は、手をつけ始めるのも同期の仲間達よりは早かったため、同級生達と比べても進捗は非常に進んでいる。大枠はほぼ完成していると言って良いので、残りはそこまで時間がかからない見込みである。
「でも卒論が終わるってことは卒業なんですよね」
「そうだね、あっという間だった」
 少し寂しい感じで藤原が漏らした言葉に川口も感慨深げに返事を返す。4回生の川口は来年卒業であり、就職も決まっているので冒険者も引退となる。2人は1期冒険者として一緒に受験するところから始まり、同じ部隊で探索するようになっている。その川口が大学を卒業し、冒険者を引退することは藤原にとって非常に寂しいことなのだ。
「でもまあまだあと3ヶ月ぐらいはあるし」
「そうですよね。それまでよろしくお願いします」
 川口の言葉にペコリと頭を下げながら返事を返した藤原は、食事を全て食べ終えた後で、紙パックのヨーグルッペを口に運んだのであった。

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