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1991年8月12日(月)

【熊大病院:倉本 華・葵 さくら・佐々木 雫】
「あ、お見舞いに来てくれたんだ。ありがとう」
 瞼を開けて、葵 さくらと佐々木 雫を見つめながら倉本 華が静かに言葉を発する。ここは熊大病院、倉本 華の病室である。先日から面会謝絶処置が終わり、面会ができるようになった。親友である葵と佐々木もそのことを聞いたので、本日お見舞いに来たのである。面会に来た時は倉本はまだ眠っており、2人は起こさないように近くの椅子に座り、倉本を眺めていた。面会ができるようになったとはいえ、頭には包帯が巻いてあり、左手と右足にはギブスらしきものがはめられている。同じ戦士として、どのような状況になればこうなってしまうのかを考えてると倉本が目を覚ましたのである。
「大変だったみたいだね」
 何と声をかけようか少し考えた上で葵が声をかける。教官の元木 美麗から聞いた話では倉本は冒険者や探索についての記憶が全く抜け落ちているということであり、今後については状況を見ながら判断するので、しばらくはその話はしないようにと釘を刺されている。
「何が起きたのかは私全く覚えてないんだけどね。でもこの怪我具合をみると、よほどの大事故に巻き込まれたのかなって。私ついてないな」
 弱々しく笑顔を浮かべながらこのように話す倉本をみて、葵も佐々木も一緒に軽く笑ってあげることぐらいしかできない。
「とりあえずしばらく入院になるけど、しっかり治してさ、またみんなで遊びに行こうよ」
「治ったら私とさくらでお金出すからまた黒川温泉にでも行こうよ」
 葵の言葉に佐々木も続ける。以前3人で訪れた黒川温泉の旅がとても楽しかったので、倉本が元気になるように提案したのである。
「本当?じゃあ頑張って早く治すね。楽しみ」
 倉本が嬉しそうな笑顔を浮かべ、気持ちが前向きになったような感じを受けたので、お見舞いに来て良かったと思う葵と佐々木であった。


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