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1990年11月3日(土)

【黒髪祭:中根 幸太・松永 沙織・富田 剛・前田 法重】
「これが黒髪祭」
「何か独特な雰囲気があるわね」
 熊大の赤門を入り、文学部の方へ向かっている中根 幸太と松永 沙織は周りの状況を確認しながら歩いている。二人はある程度熊大がどのようなところか予習はしてきたが、黒髪祭中の熊大はまた特殊な空間となっている。
「まあ今日が最終日だし、土曜日だから一段と盛り上がってるのかな」
 そう言いながら足を進める中根の後ろを松永は歩いていたが、前方からくる一升瓶の入った袋を両手に下げている男性に目が行った。まだ午前中なのに何故か眠たそうな顔をし、少しふらついているようだ。
「あの、すいません。熊大の方ですか」
 松永はその男に声をかけた。
「あ、はい。そうですが、何でしょう」
 急に声をかけられて多少驚いた感じのその男は、このように声を返す。
「あの、友達が理学部に通っているんですけど、理学部ってどっちになりますか」
「あ、理学部はこっちじゃなくて、来た道を戻って道路渡った向こう側になります」
「そうなんですね。ありがとうざいます」
 そういって松永はペコリと頭を下げ、中根の背中をおしながら赤門方向へと向かった。立ち止まったまましばらくそれを眺めていた男は自分の目的地のテントへと向かい、テントに着くと中にいる男性に声をかけた。
「前田さん。酒買ってきましたよ」
「富田お疲れ。じゃあ飲むとするかね」
 吉田スパーから帰ってきた富田 剛とテントで待っていた前田 法重は他のメンバーがやってくるまで2人で盃を交わした。

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