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1991年2月12日(火)

【岡田珈琲:牛嶋 香織・多田隈 五月】
「これで準備は万端かな」
「余った分は自分で食べるしねー」
 ケーキセットの紅茶を口に含んだ後で牛嶋 香織が発した言葉を聞いて、多田隈 五月が同じくケーキセットのショートケーキのひとかけらを口に運んだ後、満足げな表情を浮かべて返事を返した。ここは百貨店『鶴屋』の中にある喫茶店『岡田珈琲』。15時を過ぎた時間であり、店内は小洒落たマダム達が午後のひと時を楽しんでいる。午前中は戦士鍛錬場で鍛錬を行っていた牛嶋 香織であるが、明後日のバレンタイン用のチョコレートをまだ準備していなかったので、同じ部隊の多田隈 五月を誘って『鶴屋』に買い物に来たのである。牛嶋は大学にも冒険者にも仲の良い男性が多いので、たくさんの義理チョコを準備する必要があった。だが、おそらく人数分以上のチョコレートは購入したので、これで問題はないはずである。
「めいちゃんは彼氏にチョコレート上げるんだよね」
「うーん、しばらく会える予定がないんですよね。だから次に会ったときになりますね」
 疑問に思ったことを牛嶋が質問し、それに多田隈は少しため息を吐きながら返事を返した。多田隈の彼氏は福岡の大学に通っているのでいわゆる遠距離恋愛である。正直そこまで距離が離れているわけでもないが、頻繁には会えていないのが現実なのだ。
「香織さんは本命チョコあげたりしないんですか?」
 逆に多田隈が質問する。牛嶋に彼氏がいないことは多田隈も認識しているが、今現在好きな男性がいるかどうかまでは知らないのである。
「あげないかなあ」
 考える表情をしながら牛嶋が返事を返す。これを聞いて再度多田隈が質問する。
「誰か気になってる人とかいないんですか?」
 これを聞いて再度牛嶋は考え始める。
「気になっている人はいるけど、うーん、私だと役不足だと思うから」
 こう話した牛嶋を見つめながら多田隈は少しだけ不満気な表情を浮かべる。多田隈からみて、牛嶋はとても素敵な女性であり、役不足などという言葉を使う必要がないと考えているのだ。ただ、これ以上深入りするのは何か面倒な感じがしたので、多田隈はこれ以上質問するのをやめたのであった。

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