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1991年6月12日(水)
【南食堂:広巡 聡・沢田 楓・黒澤 祭】
「先輩、いつまで私の呼び名は沢田さんなんですか」
食事中何か考え事をしていた沢田 楓は食事が終わった後で広巡 聡に質問した。ここは『南食堂』。本日も多くの理系学生たちが昼食を食べに訪れている。本日鍛錬終了後一緒になった広巡と沢田、黒澤 祭は一緒に食事をということになり、ここ『南食堂』にやってきた。付き合い始めて約1ヶ月経つが、2人はお互いを「先輩」「沢田さん」と当初の呼び名で呼び合っている。これは自分が一緒にいる時だけだと黒澤は考えていたが、どうも通常から呼び名を変えていないらしい。
「え、沢田さんじゃだめかな。そうか。しばらくずっと脳内で沢田さんって呼んでたから沢田さんがしっくりくるんだよね」
自分が先輩と呼ぶ理由と全く同じことを言われた沢田は嬉しくもあったが、せっかく彼女になったので、彼女っぽく呼んで欲しい願望がある。
「名前で呼んで欲しいです」
沢田が真剣な表情で見つめてきたので、覚悟を決めて真剣な表情で見つめて言葉を発する。
「楓」
「きゃー、はずかしいー。けど嬉しいー」
そう叫んで隣に座っている黒澤に抱きつき、涙を流して喜んでいる。それを見ていた広巡は恥ずかしそうに微笑んでいたが、茶番に巻き込まれている黒澤は沢田の喜びを共感しつつも何とも言えない表情を浮かべていた。