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「初バレンタイン」~思い出と本~
まもなく明日はバレンタイン。みなさんバレンタインの思い出はありますか?
今回はバレンタインの思い出と、本の紹介になります。
私には昔、気になっている人にチョコレートを渡そうと思っても渡さずじまいになった苦い経験があります。だから、次に好きになった人は何が何でも渡そうと思っていたのです。
その好きな人は学期が変わった春、突然現れました。大学の授業でたまたま一緒になり、毎週一緒に学食を食べる仲になりました。趣味が合って、ファッションも似合ってて、かっこいい。
毎週の授業で仲良くなり、夜に電話でも話して、夏、秋と過ぎていき、とうとう1月末。授業最終回の学食。
「水族館行かない?」
とその子が誘ってくれました。もちろん、私はすぐにOK。バレンタインの近くの2月上旬に行くことになりました。
好きな人と2人きりで遊ぶのは初めてだった自分。駅の催事でアルバイトをしていた中、誘ってくれた水族館の大きな看板を見て、もうすぐあそこに行けるんだとわくわくしていました。
チョコレートも渡そうと、デパートの催事場に。かわいいパッケージのチョコやお菓子が並ぶ中、端々まで見て周り、頭が沸騰するくらい悩みました。結局、悩みに悩み、両手で収まるプレゼント型のチョコに決めました。
当日。チョコレートを鞄の中に忍ばせて、電車が集合場所に1駅ずつ近づく度にドキドキして、ふりふらのゆなちゃん(咲坂伊緒『思い、思われ、ふり、ふられ』8巻 参照)はこんな気持ちだったのかと実感しました。
待ち合わせに現れたその子はとにかくかっこいい!コートにセーターに革靴みたいな王道コーデで、どきまぎしてしまいました。
早速水族館歩いてへ向かいます。雲行きが怪しく雨がパラパラと振り出して、思いがけず人生初めての相合傘をすることに。距離が近い(>_<)話題は最近読んだ本。今までの学食なら話が弾んでいたのに、今日はその子が言ってることが緊張で頭に入ってきませんでした。
ようやく水族館に到着。しかし、とても綺麗な場所で色んな魚たちがいるのに何を話していいかわからない。一緒に見ているのにはぐれてしまったり、最後のお土産屋もかわいいぬいぐるみや文房具に何とコメントしていいか言葉が出ない。あれ、ずっと好きだった人なのに。水族館行きたいと楽しみにしていたのに。なんだか心が苦しくなってきました。
その後、カフェに入って、お互い飲み物とお菓子を注文して食べることにしました。バッグの中を見ると、悩みに悩んだチョコレートが。何か変な雰囲気になっているけど、どうしようか。でも、せっかく選んだんだし。迷って、渡しました。その子は喜んでくれました。しかし、好きだとは言えず、今までの感謝の気持ちという、あいまいな渡し方になってしまいまいました。
家に帰ってからは、ぐったりして1時間くらい寝込みました。なんで渡したかったんだろう?バレンタインを楽しみたかったから?思考回路がぐちゃぐちゃになりました。4月から1つ1つの言動にキュンキュンしてずっと想ってきたのに、いざ会うと疲れてしまう。初めての感情でした。
これ以降、なんだかぼうっとしてしまってまた本屋に行くとたまたま以下の本を見つけたのです。
連続短編集で、「初バレンタイン」という章がありました。あらすじは、
大学生の中原千絵子が、初めて出来た恋人に、本を渡すといった内容です。
ぎゃー、ほんと自分の気持ちを体現してくれているようで泣いてしまいました。以下が心に残った箇所になります。
二人はしょんぼりとファッションビルを出た。帰りたい、と中原千絵子は思っていた。ひとりでさっさと帰って、ちいさな自分のアパートで、ココアをていねいに淹れて、ひとりきりで好きな本を読みたい、と猛烈に思う。なんでなんだろう?世界で一番好きな男と一緒にいるというのに、なんでそんなことを思っているんだろう?中原千絵子は泣き出したいような気分で考える。
世界一だれかを好きだと思ったこと。その姿を見てかっこいいとどぎまぎしたこと。本を選んで後悔したこと。チョコレート売り場の混雑。(略)いっしょにいたいのにいつも帰りたかった、こんがらがった毛玉のようなあの気分。
自分も、夫になるこの人も、はじめてだれかを好きになり、いっしょにいたいのにいっしょにいると気まずい気持ちを味わって、プレゼントひとつ贈るのに考えに考えて、自分以外のだれかのことをそんなに考えるのなんかはじめてで、はじめてのそのことにびっくりしたり疲れたりして、そうして今、ここにいるんだなあと中原千絵子は思った。
「いっしょにいたいのにいつも帰りたかった毛玉のようなあの気分」。当時は好きすぎてしゃべられなくて、居心地悪くてまさにこんがらがった毛玉のようでした。
何とも言えない感情を体現してくれる作家さん、本当にすごいなと思います。『さがしもの』は「初バレンタイン」以外にも本にまつわる素敵なお話がたくさんあります。文章に深さを感じられて、内面まで良くなるような気がしました。
今年も様々なところでバレンタインの催事が開催されています。混雑を見ると、自分も頭が沸騰するくらい悩んでいたことを思い出して、笑ってしまいました。是非素敵なバレンタインを!