「同時再建」という選択
私の胸は半分は作りものだ。
乳癌摘出手術の際に、乳房の再建手術をしてもらっている。
今、
あの時の選択は最善だった。
と思う。
癌と告知されて、乳房の再建手術のことまで考えるのは、精神的にも肉体的にもなかなかできるものではないかもしれない。
また希望したところで、断られるケースもあるそうだ。
私は若い頃、母が乳癌の手術を受けていて、その傷跡を見て、少なからずショックを受けたこと。
主人の勧めで、癌だけでなく、当時まだ保険適用ではなかった再建手術の保険に入っていたこと。
乳癌と告知された後、たまたま見た記事に、一次(同時)再建のほうが二次再建(乳癌の摘出手術後、しばらくたってからの再建手術)よりも、手術後の形状が自然になる。と書いてあったこと。
主治医の先生が、私の要望を聞いて、すぐに1日の手術枠(乳癌摘出に3時間、再建手術に5〜6時間)をおさえてくださったこと。
などのことが運良く重なって、同時再建手術をしてもらうことができた。
と思っている。
癌になっているのに、見た目の美しさにまで気にするのは、と思われる方がいらっしゃるかもしれない。
先日見たニュースでは、海外では再建手術は乳癌摘出手術とセットでされる場合が多いのに、日本ではその提案すら、医師からされないそうだ。
理由は、乳癌の治療は『外科』、再建手術は『形成外科』という、違う科になるため、それぞれ異なる医師にかからなければならないこと。
また、手術時間の長さから。(その時間にあと二人の乳癌患者さんを手術できますから、と断られるケース。)
そもそも患者のほうも、再建ということにまで思い至らない場合もある。
それくらい日本では、乳癌の再建手術はまだ一般的ではないようだ。
同時期に入院されていた患者さんには、再建手術のことは知っていても、
「もう若くはないから乳房がなくても、、、」
とおっしゃっていた方がいた。
でも私は、乳癌と告知され、乳房を全部摘出する手術の話を聞いたあと、見た目以上に、なんだかもう女ではなくなってしまうような、なんとも言えない気持ちになった。
悲しいでもなく、喪失感に近い感情だったかもしれない。
どこかなげやりな気持ちでもあった。
「そこまでしなくても、もう治療だけで精一
杯だわ。」
そう言う私に、主人は、
「でもまた温泉に行きたいでしょ?」
軽くそう言って、背中を押してくれた。
主人と私は時々、車で20分ほどのところにある、日帰り温泉に行くのが楽しみだった。
私は肉体的精神的にも、暴風雨が吹き荒れる中、かつて一度は想像してみた選択をした。
何の支えもなく、まったく白紙の状態では、なかなかできなかったかもしれない。
今月の通院で、形成外科の先生に診てもらった時に、私は自然と、
「きれいにしてもらってありがとうございま
す。前から見たら、手術をしたってわかり
ません。これで温泉に行けます。」
と感謝の言葉が出ていた。
先生も嬉しそうに、
「温泉、行けますよ!」
とおっしゃってくださった。
まだまだ治療は続くものの、もう吹き荒れる暴風雨は過ぎた。
よく、
「今は二人に一人が癌になる時代です。」
と言われる。
だからこそ想像してみてほしい。
もしそうなったら、自分はその後の人生のために、どんな選択をするのか。
心も身体も健康な今のうちに。