北風の賦 第一章【総集版】
「あんた、どこ行くんよ」
妻の於福ときたら、すっかり眠り込んだとばかり思っていたのに、とんだ狸寝入りじゃないか。
のっそりと筵から起き上がる気配がして、暗がりの向こうで声がしたものだから、北風荘左衛門は途端にビクつき、土間の簀子のところでハタと動きを止めた。
思わず目を落とすと、着流した小袖の裾から、おのれの痩せた毛脛が覗いている。
「どこにも行きゃあせんわ」
「行きゃあせんたって、あんた、草履を履こうとしとうやんか」
「ちょっと厠まで小用」
「ウソ。今まで裏の厠まで行