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ラスト・ライブラリ・オブ・ザ・イヤー

夕方四時ごろ離床、「白い恋人」四枚、紅茶、パソコン作業、すぐに図書館。本年最後の開館日で、スロヴェニアの哲学者・スラヴォイ・ジジェクの『絶望する勇気』の開いたところを読んでいるうち二時間は瞬く間に過ぎ去る。ところでこのタイトルをみて、何年か前にベストセラーになった『嫌われる勇気』という本を連想した人が多いのではあるまいか。でも調べてみると英語原題は〈The Courage of Hopelessness〉。忠実な訳題ですね。原題を無視してパンチの効いたタイトルをこしらえることは出版界のみならず映画界でも往々にしてあることです。ゴダールに「Au Bout de Souffle」という映画があって、これはフランス語では「息切れ」ということだけど、邦題はご存じのとおり「勝手にしやがれ」。ジュリーこと沢田研二の同名のヒット曲の作詞はこの映画に影響を受けた阿久悠によるもの。ちなみに中島みゆきにも「勝手にしやがれ」という曲があることを備忘と参考のためここに記しておく。なんかサブカルの考察系ブログという路線も悪くないなと思えてきた。話をもどそう。
スラヴォイという人はアクロバティックな映画批評を論考中にやたらと挿入したがる人なんだけど、さいわいこの書にはその傾向がなくてありがたい。おれ映画ほとんど見ないもんな(ちなみにmy most favoriteは『禁じられた遊び』)。西欧のリベラルメディアが「イスラム嫌悪」と思われることにいかに過敏であるかなどを論じている章は、らいねんいちはやく読みたいと思う。ラカン派心理分析の手法なんかもとうとつに飛び出して来て、月並みの情勢解説にはない読み物としての面白味がある。
ところで著者はイスラエルやパレスチナの「問題」についても論じているが、このへんの紛争の歴史的経緯について詳しく知っている日本人は少ない。かくいう私もあまり知らない。ディアスポラや バルフォア宣言、インティファーダといった個々の歴史事項についてはなんとなく知っているけど、それらの背景にある世界史的文脈のことを聞かれると鮮やかに答えることが出来ない。本は人に知的謙虚さを教える。自分がじつはなにも知らないということをまいにち痛感するのはたしかに酷ではあるけれど、増上慢に陥るよりはずっとマシである。
たとえば報道でパレスチナ自治区と聞いて具体的にどんな絵が思い浮かぶだろうか。調べようとしたことが一度でもあるだろうか。外務省ホームページによりますと、「天井の無い監獄」とも呼ばれるガザ地区の面積は三六五平方キロメートルで、これは福岡県よりやや大きいくらい。そこに二一六万人の人間が住んでいるから途轍もない人口密度だ(そのうちの約一六〇万が難民)。また住民は九割はスンニ派イスラム教徒らしい。この地区はイスラエルによって「封鎖」されており、人や物資の移動はきびしく制限されている。しかもしばしばイスラエル軍の軍事侵攻に合っている。
ヨルダン川西岸(ウェストバンク)もガザ地区とおなじく、一九九三年のオスロ合意で「パレスチナ自治区」ということになった。パレスチナ解放機構(略してPLO)アラファト議長とイスラエルのラビン首相が握手している写真をきっと見たことがあるでしょう。クリントン大統領が真ん中に写っているやつです。パレスチナとの和平政策を進めたこのラビンという人はノーベル平和賞ももらい、なんとなくハト派っぽく見えないこともないのだけど、もともとは軍人出身で、パレスチナに対してもかなり強硬派だったと聞きます。二年後この人はユダヤ教徒の青年に暗殺される。意外かもしれないが、イスラエルの首相が暗殺されるなんてことは、一九四八年のイスラエルの建国以来はじめてのことだった。このままだと日記がイスラエル入門になってしまいそうなので、もっと詳しい事を知りたい人はイスラエル史の専門書あるいは池上彰の懇切丁寧な解説本に当たってください。

七時から友人と砺波の温泉に向かう。年末だからか人がいつもより込み合っていた。音楽の話で盛り上がる。レコード大賞がいまもあるということに驚く。
明日から六日日間ライブラリーはお休みなので、積読とnoteの記事に専念するか。お酒も三日振りに飲もう。

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