内なる地図
■地図とわたしのあいだ
私は16種類性格タイプ診断のINTJタイプを自認している、感覚過敏傾向のHSPで左きき者です。日頃から興味関心が内的世界に向かうため、自身にまつわるあれこれを色々と考察することが好きな性分です。頭の中でああでもない、こうでもないと自分と対話をしているので、休みの日に1人で過ごしていてもいっこうに退屈しません。
ところで、私は地図を読むことが好きです。
子供の頃、私は地図好きが高じて、自分用の日本全国地図などいくつか地図を持っていました。暇つぶしの1つとして、私は地図帳をためつすがめつ眺め、指で道路をなぞりながら、脳内地図を広げ、日本全国あちこち出かけた気分に浸ってました。
本屋の地図売り場で立ち読みを決め込み、宅地図をめくって友人の自宅を見つけて悦に入るなど他人と共有しづらい趣味を持っていました。Googleマップに頼りきっている現在ですが、当時、地図の何がそこまで私を夢中にさせせたのだろう、と不意に疑問が浮かびました。
■地図の魅力
地図は私を惹きつけて止まない何かを有しているのです。
家族と行楽でよく出かけた貯水池。一面に広がる湖のその先がどうなっているのか。小さい頃の私にとってそこは世界の果てであり、その先に何があるかなど考えたこともありませんでした。ただ、考えたこともないけれど、漠然と深い森や高い山々が樹海のように延々と広がっている。そのようなものだと疑いもしませんでした。
ところが、ある時、たまたま父がドライブついでに貯水池の周遊道路をぐるりと回り、貯水池の反対側に出たことがありました。そのとき私は軽くショックを受けました。貯水池の向こうにあったのは深い森や山ではなく、ありきたりな住宅街であり、スーパーや郵便局が連なるカーブの街道筋に沿って転々と並んでいたのです。
無いはずの世界が現前と目の前に現れたその様に全く想像もつかず本当に驚きました。そして、家に帰り、さっそく地図をめくってみると、確かに貯水池の反対側には丘陵沿いの町が網の目のように整然と広がっていました。「ああ、私は何も知らなかったのだ…。」と愕然としました。その衝撃を今でも覚えているくらいなので、子供にとってはある種の価値観を揺るがす発見であり、自分の世界の小ささ、浅はかさを知る大きな違和感であったのでしょう。
■点と線そして面
こうして頭の中の白地図に道路が延伸し、電車が通り、橋が架かる。A地点からB地点まで、点と点がつながり線となり、そして面となる。現実の三次元の光景と、地図上の二次元の世界、そして脳内次元の地図が1つに統合し構成されてゆくその面白さに当時の私はたまらない快感と興奮を覚えたのでした。
このように地図を読むことの面白さの1つには、点と点が繋がり、そして線となり、面となる、その醍醐味が挙げられます。それはまさに脳内の神経伝達物質であるシナプス同士が刺激情報によって1本の神経回路として繋がりあい、神経組織が作り上げられてゆく様によく似ています。
■地図から伺う歴史
2つめの地図の魅力として、地図は膨大な情報を示しています。幹線道路のルートから江戸時代の名残を残す街道、宿場町の町名など。地図から得られる断片的な情報を元に、そこからうかがい知れる街の歴史やその背景を想像したり考察することも魅力の1つとして挙げることができます。地図を眺めながら、その街で暮らす人々に思いを巡らす。昔はどのような地名であったのだろうか、この地域で暮らす人は生計、生活の糧や生業を何としているのだろう。もし私がこのあたりに住んでいたとしたら果たしてどのような生活を送っていたのだろうか、などイメージのままに思い巡らせていると謎の浮遊感を感じられ、あたかも架空の人物になるような感覚に陥ります。日常生活に縛られた自分から少し解放されるような気持ちが得られるとでも言えば良いのでしょうか。とにかく、地図には、空間をワープさせ、時間をもタイムスリップさせるような不思議な力があると思います。
■内なる地図、認知地図
そして、実際の光景を脳内で地図化し、構成された固有の「内なる地図」を、脳科学や心理学の世界では「認知地図」と呼ぶのだそうです。この認知地図を正確に、詳細に作りあげることで、私たちは、初めての場所に行ったり、そこから戻ってくる「ウェイ・ファインディング機能」という能力を獲得するそうです。また、この認知地図は、地理的な働きだけに作用するのではなく、人間関係を築く際にも用いられるそうです。どのような手がかりでお互いの関係を構築すればよいかと模索したり、関係を作るための行動に移すときも、脳内では、認知地図が働く部位と同じところが活発に働いているそうです。人間関係を結ぶということは、頭の中で人間関係の地図を描くことであり、更に人間関係を広げたり、人と気持ちを結び合うことは、自身の内なる地図に様々な情報を書き加えたり、どんどん書き換えてゆく、地図を描くことは人にとって思いのほか重要なことなのかもしれません。大変、興味深いですよね。
これからも時間をかけ、様々な次元で、内なる地図のその空白を埋めてゆくことを細く長く続けてゆきたいなと思います。
拙文ですがお目通しをいただきまして有難うございました。
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