地方医療と地方財政という表裏関係は医療経営で超えられるか?
「2021年12月の記事を復刻掲載」
こちらの記事は、2021年12月に公開されたものです。
地方診療所へ取材に行った現場の様子を改めてお届けします。
実在する町での地方医療の一場面をお伝えする。
取材した診療所は、約5000人の町で唯一の有床診療所だ。
かつては50床近くある町営病院だったが、医業収支の赤字を抑えるために15年ほど前に19床以下の診療所に縮小した。
この診療所のスタッフの方に、地方医療をよくするために必要なこととは何かを問うと、そこで実際に働かれている方から多く上がった言葉としては、“人手不足の解消”であった。
よく、医師不足という言葉は耳にするが、その不足具合が桁違いであった。
深刻な人手不足
まず常勤医が1人しかいない。
そのため高齢化が進んでいる町でも十分には往診ができないと頭を抱えているという。
もちろん医師だけでなく、看護師や放射線技師などの他の医療従事者も人手不足があるようで、夜勤当直のある診療所を稼働させるには最低限の人数で運営しているようだった。
安定した医療提供への懸念
また、「診療所を利用する患者さんからのニーズはあるが、やむを得ずできないことはあるか」という問いに対しては、“医療の安定した質という面で懸念”という声が上がってきた。
というのも、医師不足を補うため外部から非常勤医を派遣してもらっているのだが、来られる先生は2~3か月単位で変わり、専門とする科目も異なる。
そのため、あらゆる分野の医療知識が求められる町唯一の診療所だが、非常勤医師の専門分野によって、診療にどうしてもばらつきが出てしまうようなことがある。
また重症で高度な医療が求められるような場合は、大きな病院がある市まで2~3時間ほどかけて他院で診てもらう必要がある。
結果的に、重病・重症時の早急な転院搬送が難しいことは、地方診療所のやむを得ない点ではあるものの、どこに住んでいても平等な医療が受けられることができないかと模索しているようだ。
このように改善すべきであろう点は多々あるが、どうしてもできない背景には財政難がある。
民間の経営ノウハウを活かす「指定管理者制度」
冒頭でお伝えした約15年前に行った19床以下への診療所の縮小後も、年1億円を超える医業収支の赤字となった。
これでは病院も町も立ちゆかなくなると考え、町は指定管理者制度(※1)の導入を行った。
(※1指定管理者制度…公の施設をノウハウのある民間事業者等に管理してもらう制度のこと。 これによって、2003年の法改正以前は制限されていた医療法人等の民間事業者にも、公の施設の管理を任せることができるようになった。
この指定管理者制度は、医師不足などの影響などにより、病床稼働率の低下、外来患者の減少が生じ、不良債務が発生するなど、病院経営が厳しい状況にある公立病院で導入されることが多い。
日本でも指定管理者制度が導入されている施設数は77,537施設(令和3年現在)と、多く採用されている。(※2) )
今回取材した診療所も指定管理者制度を導入した結果、年間外来患者数は約5,000人増えた。
導入後翌年の医業収支の赤字は、不採算部門の救急外来や入院を再開しても、町営の頃の半分近くに圧縮できたようだ。
また、指定管理者制度を導入したことで、最新式の画像診断装置や人工透析装置も導入された。
それまで透析患者は、約70キロ先の町まで往復3時間かけて通院していた。大雪などの悪天候により通行止めが続くと命の危険にさらされる日もあったようだ。現在は「車で数分の近所で透析ができるようになった。」と感謝されている。
感謝される医療を行うためにも、進歩していく医療を提供するにもお金が必要となる。
医療経営力を伸ばすことで医療者の方々が願う医療の実現の幅が拡がっていくと感じた。
同時に地域格差を医療経営で縮めることができればと感じた。
まとめ
赤字傾向の地方医療をどう運営していくか。
地方医療を守れないと、地域住民の生命を守ることができず、そして雇用と生活までもに影響が出てくるかもしれない。
不採算でも地方医療を支えるのが公立病院の役割とはいえ、規模を縮小するだけでは経営は改善しない時代かもしれない。
上記に記した診療所のように、医療経営に力を入れ、その地域が必要とする医療機能を考え、どんな運営方針で病院を成り立たせるか、モデルプランを明確にして取り組む必要があるのかもしれない。
※2…参考総務省HP
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