スタッフ同士がお金のトラブルに・・・立て替えて給料から天引きしても良い?|診療所のトラブルQ&A #3
「2023年3月の記事を復刻掲載」
こちらの記事は、2023年3月に公開されたものです。
大人気の連載企画を改めてお届けします。
診療所でのトラブルに関する質問に、本山総合法律事務所代表の宇佐美芳樹弁護士にお答えいただく連載。
今回は「スタッフ同士がお金のトラブルになりました。立て替えて給料から天引きしても良いのでしょうか?」というご質問にお答えいただきます。
第三者が立て替えることは可能?
まず、スタッフが他のスタッフに対して金銭債務を負っていたとして、トラブル防止のために診療所が代わりに弁済してあげることは可能なのでしょうか。
代わりに支払ってあげるのだから問題がないように思われるかもしれませんが、法律は、「弁済をする正当な利益」を有しない人は、債務者の意思に反して弁済することは原則できないと定めています。
(例外についての詳細は民法474条に規定されていますので、気になる方はご確認ください)
ここでいう「弁済をする正当な利益」とは、弁済しないと法律上の不利益を被るような場合を指します。
分かりやすい例で言えば、保証人などがこれに当たります。
したがって、今回のケースでは、診療所は「弁済をする正当な利益」までは有していないため、債務者が立替払いを望んでいないような場合などでは、そもそも代わりに弁済することはできません。
立て替えたお金を給料から天引きできる?
では、診療所が有効に立替払いをすることができたとして、立て替えたお金を給料からの天引きという形で返してもらうことはできるのでしょうか。
法律は「賃金はその全額を支払わなければならない」と規定しており(労働基準法第24条1項)、社会保険料などの法律上認められているもの以外を賃金から控除することを禁止しています。
したがって、原則として天引きという方法で給料から返してもらうことはできません。
ただし、例外として、天引きが「労働者の自由意思に基づいてなされた」ものと認められる「合理的な理由が客観的に存在する」場合には、天引きも有効であると最高裁は判断しています。
そのため、従業員が自由な意思で同意していれば天引きで返してもらうことも可能です。
なお、後日同意があったか否か争いになる場合があるので、同意書をもらっておくことは必須です。
借用書を取り交わして債務弁済という形に
今回のケースでは、立替払いが債務者であるスタッフの意思に反していないような場合で、かつ、天引きをすることについて自由な意思で同意しているのであれば、診療所が代わりに支払った上で、天引きで返してもらうことも可能です。
ただし、上記のように天引きは職員が自由な意思に基づいて同意していたと認められなければ無効となります。
そのため、仮に同意書をとっていても、後日、自由な意思で同意できる状況ではなかったと争われて無効になる危険性がつきまといます。
したがって、弁護士としては、天引きはオススメできません。
できれば、きちんと借用書を取り交わして債務の弁済という形で返してもらうようにしてください。
著者:宇佐美 芳樹
本山総合法律事務所代表弁護士。
愛知県弁護士会所属。
労務管理、労働トラブルの解決、債権回収、クレーマー対応、契約書のリーガルチェックなどの企業法務を中心に、離婚、相続、交通事故まで広く民事商事全般を取り扱う。クライアントの声に耳を傾け、粘り強く最良の解決方法を探っていくことを信条とする。
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