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スタッフが引き抜かれた・・・損害賠償請求できる?事前の備えは?|診療所のトラブルQ&A #5

「2023年5月の記事を復刻掲載」
こちらの記事は、2023年5月に公開されたものです。
大人気の連載企画を改めてお届けします。


診療所でのトラブルに関する質問に、本山総合法律事務所代表の宇佐美芳樹弁護士にお答えいただく連載。

今回は「出入りしている業者さんがスタッフを引き抜きました。損害賠償請求できますか?」というご質問にお答えいただきます。


職業選択の自由が保障により原則違法にならず

従業員の引き抜きは、企業や経営者の方から受ける相談の中でも数の多い相談の一つです。

スタッフを引き抜かれるということは、これまで育てた人材育成費用が無駄になるだけでなく、スタッフの地位や担当業務によっては診療所の顧客情報やノウハウといった機密情報が外部に流出するのと同様のダメージを負うことになります。

それでは、引き抜きがあった場合に、引き抜いた相手に対し損害賠償などの法的措置がとれるのでしょうか。

前提としてわが国では憲法上の権利として職業選択の自由が保障されているので、従業員がどこに転職しようと原則として従業員の自由であり、違法にはなりません。

このように転職が自由である以上、その勧誘である引き抜き行為も原則として違法にはならないため、引き抜いた相手に対して損害賠償請求をすることは原則としてできません。

例外的に賠償請求が認められる場合は?

ただし、例外的に損害賠償請求が認められる場合もあります。
判例では「引き抜き行為が単なる勧誘の範囲を超え、著しく背信的な方法で行われ、社会的相当性を逸脱した場合」には引き抜き行為が違法になるとして損害賠償請求を認めています。

例えば、営業データを持ち出すことを指示した上で、複数の人に声をかけ、実際に複数の従業員を引き抜いたというような事案などでは裁判所は損害賠償請求を認めています。

しかし、ここまで悪質な引き抜きが行われるケースは稀ですし、実際に行われた場合でも、損害賠償請求を行うためには引き抜かれた側が上記のような事案であることを立証することが必要となります。

したがって、引き抜きが行われた場合に損害賠償請求で対抗できるケースはそれほど多くはないのが実状です。

引き抜き行為は我慢するしかない?

引き抜かれる側は引き抜き行為を我慢するしかないのかというと、必ずしもそうではありません。

引き抜きに対する対応は事後よりも事前の備えが重要となります。
具体的には、引き抜かれたくないスタッフがいる場合には、当該スタッフと競業避止義務契約を結んでおくことで引き抜かれないようにしておきます。

この競業避止義務契約を分かりやすくいうと、「所属する、または所属していた企業と競合する企業に就職することや、競合する営業を自ら行うことを禁止する契約」を言います。

したがって、あらかじめ競業避止義務契約を結んでおけば競業他社に引き抜かれることを防止することができるのです。

ただし、競業避止義務契約は上述した職業選択の自由という憲法上の権利を制約する契約ですので、単に競業してはいけないという契約を結んだだけでは裁判で争われた場合に無効になる可能性が高いです。

そのため、退職後に競業できない期間や、競業できない地域を限定するなど十分に職員に配慮した契約を結ぶ必要があります。

この点については、かなり難しい問題ですので、どうしても引き抜かれたくないスタッフがいる場合には専門家と相談した上で契約書を作ることなどが必要です。

著者:宇佐美 芳樹

本山総合法律事務所代表弁護士。
愛知県弁護士会所属。

労務管理、労働トラブルの解決、債権回収、クレーマー対応、契約書のリーガルチェックなどの企業法務を中心に、離婚、相続、交通事故まで広く民事商事全般を取り扱う。クライアントの声に耳を傾け、粘り強く最良の解決方法を探っていくことを信条とする。

本山総合法律事務所のHPはこちら

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