代診の先生とトラブルに 口約束でも契約は成立する?|診療所のトラブルQ&A #1
「2023年2月の記事を復刻掲載」
こちらの記事は、2023年2月に公開されたものです。
大人気の連載企画を改めてお届けします。
診療所でのトラブルに関する質問に、本山総合法律事務所代表の宇佐美芳樹弁護士にお答えいただく連載。
今回は「代診の先生と2年間働く口約束で年収を高くしましたが、1年で退職したいとの申し出があり、本来の給料との差額の話をすると契約書が無いから不当だと言われました。どうしたらよいですか?」というご質問にお答えいただきます。
口約束でも契約は成立する?
契約を結ぶ際には契約書の取り交わしが行われることが多いことから、一般的に契約書を交わさないと契約は成立しないと思われがちです。
しかしながら、法律的には口約束でも契約の成立は認められます。
したがって、契約書を交わしてないから主張が不当ということはありません。
それでは、なぜ契約を結ぶ際に、契約書の取り交わしが行われるのでしょうか。
それは、後日、契約の相手方と契約した事実やその内容で争いになり裁判となった場合に証拠が必要になるからです。
裁判では「契約をした」とか、「こういう内容の契約であった」などの、ある事実の存在を主張したい側が、原則としてその事実が存在したことを証明する必要があります。
そして、証明ができない場合には、その事実はなかったものとして扱われます。
そのため、後日争いになった場合に、裁判所に事実の存在を認めてほしい側は、その証拠を残しておく必要があるのです。
証拠がないと有期雇用契約を証明できない
今回のケースでは、相手方は「2年間の有期雇用契約であった」ことを争っています。
そのため、貴方のほうで「2年間の有期雇用契約を結んだ」という事実を証明する必要が生じ、これができなかった場合には、有期雇用契約を結んだ事実はないと判断され、一般的な雇用形態である無期雇用契約であったと認定されてしまいます。
ちなみに、無期雇用契約の場合、従業員は2週間前に退職の意思を伝えればよいとされているので(民法627条1項)、相手方は何の問題もなく退職できてしまいます。
どう対応すればよい?
それでは、どうすればいいのでしょうか。
まず、今回のケースでは、相手方は、契約書を交わしていないから不当と主張しており、口頭で有期雇用契約を結んだ事実自体は争っていないように見受けられます。
そうだとすれば、相手方が有期雇用契約を結んだことを認めていることがわかるやり取りを録音するのが一つの手です。
よく「録音データは裁判で証拠になりますか」という質問を受けますが、民事裁判では有効な証拠として認められており、実際に提出されることが多い証拠です。
ただし、毎回うまく言質をとれるわけではないため、今後は契約時に雇用契約書を交わすようにしましょう。
なお、雇用契約書自体は法律上取り交わすことを義務付けられてはいませんが、労働条件を書面で通知することは法律上義務付けられています。
そして、この通知しなければならない労働条件の中には契約期間も含まれています。
したがって、雇用契約書自体は取り交わしていなくても違法ではありませんが、労働条件の書面での通知も行っていなければ、それ自体そもそも違法となりますのでご注意ください。
著者:宇佐美 芳樹
本山総合法律事務所代表弁護士。
愛知県弁護士会所属。
労務管理、労働トラブルの解決、債権回収、クレーマー対応、契約書のリーガルチェックなどの企業法務を中心に、離婚、相続、交通事故まで広く民事商事全般を取り扱う。クライアントの声に耳を傾け、粘り強く最良の解決方法を探っていくことを信条とする。