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新作 『Genderless 雌蛇&女豹の遺伝子』(17)絶世の美少年に恋する男。

お礼がしたい?
アカネから届いたメールは、夢にまで見た美少年アツシが都内の高校に進学するので東京暮らしが始まるとのこと。植松拓哉の耳にも彼が〇〇高校に合格したことは入っていた。アツシ少年は昨年末の格闘技戦で一緒に会場で観戦してもらったお礼をしたいと言っているのだが、お父さんの都合はどう? というものだった。
正直、植松はアツシ少年と会うのが怖い。自分自身の心が分からない。まさかとは思うが、、、“俺は彼に妙な気持ちを抱いているのだろうか?”  植松は頭を抱えた。
それでも断る理由はない。否、むしろ植松はアツシ少年に会いたくてたまらない。

植松は高校時代付き合っていた女と出来ちゃった婚をして生まれたのがアカネだ。
18才の時だった。しかし、格闘技一筋で面白味のない植松に呆れたのか? 妻は他に男を作りアカネが物心付く前に出て行ってしまった。美人だが派手な女だった。
それ以来、植松は女とはまるで縁が無い。そんな彼であっても男であることに変わりはない。ちょっといい女だな、、と思うことがあったことは否定出来ないが、心まで奪われたことはない。彼の心の大半は格闘技で占められ禁欲生活を課してきた。恋愛感情に陥ったこともない。

“ 植松さんのアツシ君を見る目を見れば私には分かります。でも、あの少年は男の心を惑わす魔性の美少年… ”

植松は山吹望にそう忠告を受けたことを思い出していた。その時は一笑に付したのだが、時が過ぎても忘れられずアツシ少年に会いたくなる気持ちは高まる一方だ。
どんなに美しい女を見ても心まで奪われることのなかった彼が、今回ばかりは自分が分からない。こんな気持ちになったのは生まれて初めてではないか? 元妻と高校時代交際していた時でもこうではなかった。

“俺は狂ったのか? 今まで出会いがなかっただけで、40過ぎ男の遅咲きの恋なんて世間にはいくらでもあるだろう? でも、相手は中学を卒業したばかりの未成年だ。それは犯罪ではないだろうか?  しかも女ではない少年なのだ、、俺は決してゲイではない。それなのに少年の虜になるなんて、、、なんてことだ!汚らわしい… ”

植松はあの格闘技戦会場で隣席に座ったアツシが身体に密着してきた時の興奮を思い出していた。あの少女のような身体の感触に股間が反応してしまった。少年の手が植松の股間に触れた。その時、ニヤッと意味ありげな目をアツシは向けてきた。
潔癖症で真面目な植松は少年に会うべきか会わぬべきか?自分と戦っていたが、断る理由がない!と自分に言い聞かせた。
植松はアカネに  “今週の土曜日なら都合が付く、ランチでもしようと伝えてくれ” と
場所と時間を指定して返信した。



「植松さん、スパーリングお願いします」

NLFS道場で春の大会目指し稽古に熱が入るアカネのもとに奥平美由紀が来て言った。
美由紀はこうして度々アカネに胸を借りに来るが、この少女の柔術テクニックにアカネも舌を巻くことしばしば。
アカネはNLFS入校以前はKG会空手女子日本一だけでなく、柔術の方でもアマチュア女子日本一の座に就いている。美由紀はそんなアカネ相手でも柔術に関しては五分。否、最後には蜘蛛のような美由紀のしつこさに根負けさえしてしまうほどだ。スパーを終えるとアカネは美由紀に言った。

「美由紀は本当にガードポジションの使い方が上手いね。特にスパイダーガードは鉄壁。下手に突っ込むと蜘蛛の巣に引っ掛かったように何も出来なくなる…」

「植松さんに褒めてもらえて光栄です。打撃の方も、もっともっとご指導願います」

美由紀は、柔術に限ってはかつての雌蛇NOZOMIや柔術マジシャン奥村(現嶋原)美沙子以上の逸材かもしれないが打撃に課題があった。しかし、その打撃もここの処メキメキ上達。アカネの精密機械のようにピンポイントで刺す打撃に興味を持ったらしくそれを貪欲に学ぼうとしている。

白木志乃はそんなアカネと美由紀の会話を聞きながら嫉妬を覚えていた。志乃も天才格闘少女と言われ16才でプロデビューすると男子ファイターを連続撃破。デビュー3戦目は昨年末の格闘技戦で、高校柔道日本一であった潮崎三四郎に挑むも敗れている。
そんな潮崎三四郎と、今夏、美由紀のデビュー戦の相手として交渉中だと志乃の耳にも入っていた。実際、潮崎三四郎と戦ってみて本物の男子格闘家の強さを身を持って知った志乃だが、、、。
志乃は美由紀は恐ろしい少女だと思っている。向こうはどう思っているか知らないが彼女に対して激しいライバル意識を持っていた。志乃は高三になった。美由紀も中学を卒業し高一だ。年齢的には近いが、やはり後輩には負けたくない。それでも、美由紀の圧倒的才能に嫉妬してしまうのだ。
最近ではスパーをしても圧倒されてしまうのでそれを避けているほどだ。

“ 美由紀は私が勝てなかった潮崎さんに勝ってしまうかもしれない、、否、勝つだろう°

「志乃、どうしたの! 最近元気がないみたいね?  潮崎三四郎君に敗れてから、色々考え込んでいるように見えるけど、、、」

今ではNLFSの道場を仕切っているシルヴィア・滝田に志乃は声をかけられた。
シルヴィアは志乃に自分と似た気性を感じ気に掛けていた。気が強く負けん気が強かった自分の現役時代に重ね合わせていた。

「潮崎さんに負けたことは結果だからいいんです。でも、自分には本当に才能があるのかな?って…」

「何言ってるの志乃! そんなのは挫折のうちに入らない。格闘技は負けを経験しないと強くならないの。いくら男女平等とはいえアナタは女の子。そんな女の子が高校柔道日本一になった年上男子に負けて悔しがるなんて世間的にはおかしな話。そこが、まぁ、、アナタの良いところだけど…」

「はい!分かってます。まだまだ私は強くなります。ところで、この夏の大会で美由紀のデビュー戦相手として、潮崎さんと交渉中だと耳に入ったのですが… 」

シルヴィアは気付いていた。
志乃が美由紀に対して激しいライバル意識を持っていることを。彼女が元気ないのは
潮崎三四郎に敗北したことではない。メキメキ力をつけてきた後輩、奥平美由紀の才能に嫉妬しているからだ。かつて、シルヴィアが後輩堂島麻美の才能に嫉妬、焦りを感じていたように。

「美由紀のデビュー戦の相手として、潮崎三四郎とコンタクトを取っているのは本当です。でも、それは難しそうなの。頑なに女子とは戦いたくないと言ってるそうよ。でも、志乃は今は自分のことだけを考えて稽古を積む段階。分かったわね?」

「は、はい!」


その土曜日の昼下がり。
植松拓哉はある和風レストランの駐車場に車を停めると店に入った。
朝からアツシ少年との再会に緊張していた彼は、ちょっぴりオシャレをして行こうと思ったが、“ デートじゃあるまいし、まだ15才の少年と会うのにオシャレなんてしたら不自然だ…”  そう思い直し、ラフで彼にしては珍しいカジュアルな格好で向かった。

「アツシくん、、君、ひとりで来たのか?お姉さんと一緒じゃないのか?」

アツシ少年は既に店に来ていた。

「植松のおじさん、久しぶりです。姉も一緒に来ると言ったんですが、ボクは子どもじゃないからって、ひとりで来ました」

アツシはそう言うと、手土産を姉からと思われるお礼状と共に植松に渡す。
ショートボブにレディースともメンズともつかない中性的なファッション。スカートを穿いたりメークこそしていないが、彼の見た目、その身体のラインはどう見ても少年というより少女に近い。知らない人が見れば父娘と映るだろう。

絶世の美少年を前に、シャイで無口な植松は  “こんな少年と二人っきり、俺は何を話せばいいのだ?どう接すればいいのだ?”

「何か食べたいものは?」

「う〜ん、、お刺身定食がいいかな? 」

美少年はそう言うと植松に目を向けニッコリと微笑んだ。

魔性の微笑み。

植松拓哉はゾクッとした。


つづく。





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