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性の越境者マリア残酷物語。(1)女装散歩。
この物語は、以前ここでも書きました、
『ある性的倒錯者の告白&妄想』(全34話)を元に、妄想を織り交ぜ舞台を昭和から現代に置き換え、新たに純文学風に書けたらと思っています。これは、作者(私)の体験もありますが私小説ではありません。ほぼ妄想からの架空の物語になります。
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マリアは黒のタイトスカート、白いブラウス姿で夜7時の下町をドキドキしながら散歩している。いつもなら一人暮らしのマンション周辺をまわるだけなのだが、今日は思い切って駅方面に足を延ばしたのだ。
(女に見えるかな?)
マリアは所謂女装者である。
子どもの頃から興味あった女装を本格的に始めたのは22才の時から。それから2年経つと、その女に変身するスキルはかなりのレベルに達してきたと思う。この時代はネットで自由に女性の服や靴、メイク道具等の女装用品が手に入る。マリアはそれらを眺めているだけでゾクゾクする。
最初は部屋の中、インドア女装だけだったのが、思いの外、それだけでは満足せず行為はエスカレートしていった。やがて、女装サロンにも顔を出すようになり、他の女装者との交流が始まるとそのスキルは益々磨きがかかってきたように思う。
「これは一人の男にとっては小さな一歩だが女としては大きな一歩だ!」
初めての女装外出は半年前だった。それはマンションの周囲を数分まわるだけの狭い範囲だったのだがとても刺激的。
自部屋や女装サロンといった、守られた場所だけの女装では飽き足らず、この姿で外を歩いてみたい。そして、(本当は男である)人々の目を欺いてみたい。そんな気持ちを抑えられない。女装散歩という刺激を求めその距離を少しずつ伸ばしていった。
今、女に化けたマリアは駅方面に向かって歩いている。駅周辺は人通りも多く今までのコースとは全然違う。現代は女装者を奇異の目で見る人は少なくなってきたとはいえ人目を引くのは間違いない。
マリアは170cm 54kgと細身である。小顔で首も細く女装するには恵まれた身体だと思っている。それでも、ローヒールではあっても靴を履くと背が高く見えないか?が気になって仕方ない。男としては平均よりやや低いが、女としては高く目立ってしまうのではないか?それが気掛かりだが自分の女装には自信を持っている。決して男であるとバレないと思い込もうとした。
駅へ向かう道、そのメインストリートはやはり人の往来が激しい。マリアは行き交う人がこちらに目を向けるとドキドキして胸が張り裂けそうだ。決して目を合わせないようにうつむき加減で前に進む。いくら姿形はごまかせても、女としての所作が不自然だと挙動不審に見えてしまうものだ。
「ねえ、ねえ! あの人、男じゃない?」
「ええ! うそ! 信じらんない…」
コンビニの前を通ると、制服姿の女子高生と思われる数人がマリアに目を向けヒソヒソ話しているのが耳に入った。
(まずい! 男だとバレてしまった…)
それでもマリアは聞こえていないふりをして通り過ぎた。あの世代の女の子は鋭い上に好奇心旺盛。一番警戒すべき相手だ。
無事通り過ぎたと思ったのも束の間。女子高生たちはソローっとマリアの後をついてきた。マリアはパニックに陥りそうになった。振り返ればキャーキャー騒がれるに決まっている。こんな街では女装者を見掛けるのは珍しいはず。好奇心旺盛な女子高生たちにとってみれば格好のターゲット。
(スマホで写真を撮られたら嫌だな…)
しかし、やがて、後ろをついて来る女の子達の気配がなくなった。チラッと振り返るとそこにその姿はもうなかった。
ホッとするマリア。本当に若い女の子の目は怖い、、ごまかしが効かない。
マリアの住むマンションから駅までの距離は男の足で15〜20分位なのだが、今のマリアは女として歩いており、その脚はタイトスカートに拘束されているのだ。駅のロータリーに着き時間を見ると7時に部屋を出てから40分近く経っていた。
女装のままこんな長い時間外を歩いたのは初めての経験。道中、女子高生グループに「あの人、男じゃない?」と言われ冷や汗はかいたが、時折マリアに目を向ける人はあっても、殆どの人は気にもかけず行き交うだけ。帰りも多分30分以上はかかるだろう。マリアは慎重に周囲を窺いながら盛り場の方に足を向けてみた。
男である自分がスカートを穿いて、化粧をして、女に化けた生身の姿を人々の目に晒すのだ。こんなこと、真っ当な神経で出来るわけがない。マリアの女装散歩はいつも微量のアルコールつまり酒の力を借りる。特に今日は駅周辺までの遠出。いつもより多めに飲んで来たのでホロ酔いもあり気が大きくなっていた。折角ここまで来たのだからすぐに帰ってしまうのは勿体ない。更なる刺激、スリルを求め酒場が立ち並ぶ盛り場の方まで足を運んでみた。
ショッピングモールと違い、ここでは好奇な目で見られているような気がする。でもそれは自意識過剰? 自分が思うほど人は他人のことなんか気にしないものだ。そう思いはするがドキドキして足が震える。
「おねえさん! 一人で何処行くの?一緒に飲みに行かない?」
背後からいきなり声をかけられたような気がする。でも、それが自分に対してのものなのかどうなのか? 明らかに酔っているであろう二人組のサラリーマンのようだ。下手に振り返って目が合ってしまうと絡まれて面倒くさいことになるかもしれない。怖くて膝がガクガクするものの、そのまま平静を装い足早に逃げるように前に進む。
「なんだ! ツンツンした女だな…」
背後からサラリーマンがマリアを罵倒しているのが聞こえた。生まれて初めて男から声をかけられた。自分はナンパされたのだろうか? 彼らは僕のことを”おねえさん“と確かに言った。こんな繁華街の盛り場、いくらスリルと刺激を求めるためとはいえ、どんなトラブルに巻き込まれるか分かったもんじゃない。マリアは帰路に向かった。
「お! か、彼女、、オレと遊ばない?エッチなことしない? 〇マ〇コしようよ…」
向こうの方からやってきた労務者風の酔漢にいきなり声をかけられた。かなり酔っているようで、先程のサラリーマン二人連れよりタチが悪そうだ。その下卑たニヤケ顔に身の危険を感じたが声を出す訳にはいかない。本物の女なら「キャー、止めて下さい!」と叫び周囲に助けを求めることができるかもしれないが、女の装いとはいえ、そうすれば男だとバレてしまう。
(こいつは僕を見て「〇マ〇コしよう」と言ったな? 僕は男だぞ、、〇マ〇コなんてないからな。早く向こうへ行け!)
そのまま無視して行き過ごそうかと思ったが、酔漢は「彼女冷たいな」と言いながらマリアについてくる。そしてマリアの前に回り込むと顔を覗き込んできた。
「なんだ!おまえ、男だろ? ケッ、オカマの立ちんぼかよ!気持ち悪いな…」
男の大声に周囲の通行人が振り返りマリアの顔を興味深そうに見ている。酔漢はそのまま唾を吐きながら立ち去った。
いきなりナンパしてきて、それが男であると分かったら「オカマの立ちんぼかよ」なんて、なんて失礼な奴だろう。マリアはひどく腹を立てた。それ以上に深く心が傷付いた。自分では上手く女に化けたつもりでも客観的にはオカマなのだろうか?
それからは大きなトラブルはなく30分後に部屋へ戻るとホッとするのであった。
女装散歩に部屋を出たのは7時過ぎだったのだが、戻って時計を見ると8時35分である。いつもはマンション周囲を15分程の散策なのだが今夜は大きな冒険だったな…。
緊張から疲れ空腹を感じたマリアはシャワーを浴びると男姿に戻り、スナック菓子を肴にビールを飲みながら今夜の女装冒険を振り返る。色々怖い思いもしてどうなるかと思ったが、そして ”オカマの立ちんぼ” なんて言われ傷付きもしたが、やはり、女になっての散歩は刺激的であった。
(ナンパされた時、男は僕のことを「おねえさん」「彼女」と言ったのは確か。もっと、もっと女を磨いて見破られないようにしないとな…。それに、新宿や渋谷等と違って、このような下町では、女装者は珍しいのだろう。気を付けないとな)
それから、マリアは酔漢に「〇マ〇コしようよ」と卑猥な言葉を投げかけられた時のことを思い出した。オカマの立ちんぼと言われたのは悔しかったが、何故かマリアは興奮もしていた。それは、自分が男に性の対象として見られたからなのだ。
(僕は変態なのだろうか?)
つづく。