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女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』(47)進学、そして初勝利。

その年も大晦日まであと一週間。

来春になると高三の龍太、中三の麻美とも進学問題がある。
麻美はNOZOMIからの紹介もあり、ある女子校への推薦入学が濃厚だ。
龍太は高校を卒業したらプロ格闘家になりたいと母に伝えた。

「お父さん(源太郎)は自分が行けなかった大学へ、長男であるお前に行かせるのが夢だと常々言ってたの。お願いだからそんな夢をかなえさせて..」

親孝行の龍太は、母にそう言われると断ることは出来ない。それに柔道全国大会でベスト8にまでなったのだ。
いくつかの大学から誘いもあった。
学生プロ格闘家という道もある。

NOZOMIも既に25才になっている。
引退までのカウントダウンはあと5年に迫っている。大学での4年間で更に柔道での実力を上げ、今まで通りKG会空手、継父の今井や岩崎がトレーナーを務めるジムでキックやグラップリングの練習を続けよう。そして、卒業までにNOZOMIの目をこちらに向けさせるのだ!龍太はそう思う。

(いやいや、俺は年下の女の子に負けたんだ。そんな俺がNOZOMIさんと戦おうなんておこがましい。そんな先のことより、一週間後に迫った柳紅華との再戦でリベンジを果たさなければ)

大晦日の大会まで数日と迫ったある日のこと。本来は柳紅華と戦うはずだった高校生MMA王者迫田宗光がマスコミの前であるコメントを発した。
彼は “ 女子選手(柳紅華)から逃げた”と世間から批判を浴びマスコミからも追いかけられていたからだ。

「自分は女の子なんかと肌を合わせて戦うなんていやだね。もし、あのトーナメントで柳が棄権しなかったらこっちが棄権してたよ。それに、堂島龍太君はみっともなかったね。年下の女の子にボコボコにされちゃって、、全国柔道大会で戦ったライバルとしては情けない限りだよ。それに、堂島君のお父さんも女に負けたんだよね? 父子揃って恥ずかしい、アハハハ!」

迫田宗光は素行に問題があり歯に衣着せぬビッグマウスで有名なのだ。
そんな迫田のことは龍太も知っており(また、はじまった...)と苦笑いするしかなかったが、それをテレビで観ていた麻美は怒りで震えていた。

(女の子なんかと、、だって? それにお父さんとお兄ちゃんのことをバカにしたわね? 絶対ゆるさない!)

話はトントン進みます・・・。

大晦日『G』主催の格闘技大会。

メインはMMA無差別級日本王者大田原慎二と、ここのところ急激に力をつけている川上力の再戦。

今回、NLFSからの参戦は4人。
NOZOMIはセミファイナルで(帝国プロレス)ウルフ加納と戦う。
加納はかつてNLFS鬼コーチである鎌田桃子と熱戦の末、最後はマウントからのパンチで鎌田をKOしている。
今ではプロレス界屈指のシュートレスラーに成長しており、185cm100kgの身体はあの渡瀬耕作より大きい。
NOZOMI危うし!との声も多い。

シルヴィア滝田は前回MMA男子ウェルター級ランカーに勝利していることから今回は日本2位の酒井篤と対戦。
この試合に勝てば 王者への挑戦話が持ち上がるかもしれない。

天才ムエタイ少女、天海瞳はデビュー2戦目にしてキックボクシング男子バンタム級8位の村越健次郎と対戦。
勝てばランカー入りである。

皆、強敵ばかりである。

夏の大会に出場した桜木明日香と奥村美沙子は今回はお休み。あまり無理をさせることは出来ない。
鎌田桃子は30代も半ばになろうとしており、NLFS所属のまま戦う舞台は主にプロレスに移していた。

NLFS一番手で登場したのは柳紅華。

今、堂島龍太と柳紅華はリング上で向かい合っている。
そしてゴングは鳴った。

(実況)

「夏の高校生ワンナイトトーナメント一回戦で戦った両者ですが、その時は高校一年女子の柳紅華が三年男子の堂島龍太にKO勝ちするという衝撃的な結果になりました。今回はどうなるのでしょうか? 父、源太郎の名にかけて、そして男の名誉にかけて、今度は負けられないぞ、堂島龍太!」

前回の対戦では女子と戦っているという違和感で、ふわっと地に足がついていなかった龍太だったが今度はいやに落ち着いている。

(妹の麻美はこの柳紅華とのスパーリングで、ここのところ 8:2 で分がいいと聞いている。普通に戦えば俺は負けるはずがない。柳紅華に連敗してしまったのなら? 俺は麻美にも勝てないということになるんだ。兄としてそんな屈辱的なことはない!)

トレーナーとの作戦は打撃から入っていけというものだ。しかし、龍太は前回と同じように敢えて手四つから入っていった。龍太は頑固な面がある。

(前より力がついているな...)

龍太は麻美より弱い相手に得意の打撃からいく必要もないと考えたが、更にパワーアップした紅華に驚きを感じていた。そのまま相撲でいう相四つの形になると、韓国相撲出身の紅華の足腰は強く先に膝をついたのは龍太の方だった。しかし、龍太は膝をつき倒れると同時に紅華の脚を巧くすくった。
そのまま寝技の攻防になる。
(麻美はこんな力強い女に勝つのか?)

寝技の攻防になれば柔道をやっている龍太が一枚上。

それからは一進一退の攻防ながら常に龍太が先手を取り、最後はスタンディングで空手対テコンドーの打撃戦となり紅華のハイキックを巧くかいくぐると、接近戦から龍太の右フックが見事に紅華の左顔面に決まった。
紅華は膝から崩れ落ちるともう立ち上がるとは出来なかった。

(恐ろしい女の子だった...)

龍太は女の子の顔面をヘッドギアなしに拳で打ち抜く後味の悪さを感じつつも、相手は女子ながらプロリングでの初勝利にほっとした気分だった。
そして、龍太と紅華はハグをするとお互いを称え合いリングを降りた。

この一連の異性格闘技戦。

夏の大会で龍太が紅華に敗れた時点では女子の26勝8敗であった。
それが、桜木明日香が王島守、奥村美沙子がダン嶋原に、そして柳紅華が堂島龍太との再戦に敗れ三連敗。

それでも、通算では女子の26勝11敗。

ムエタイ天才少女天海瞳がリングに上がるとワイクルーを舞った。
今回の相手はキックボクシング男子日本バンタム級8位村越健次郎。
29才になるベテランであり、れっきとした日本ランカーであり今までの相手とはわけが違う。
試合はキックムエタイ混合ルールで、3分3ラウンドで行われる。

いかに天才といえども、まだ高校二年の17才少女である。
村越はKOを狙わず堅実にポイントをかせぐ戦法。瞳も果敢に攻めようとするが村越の老獪さに大苦戦。

「村越!女の子相手にそんな戦い方は男らしくないぞ!」

そんな野次も飛んだが、終始村越のペースのまま終了のゴングが鳴った。
僅差ではあったが、明らかにポイントは村越が取っており瞳は判定負け。
悔し涙を流しながらリングを降りた。

だが、男子日本ランカーを相手に積極的に戦い判定まで持ち込んだ17才の少女に惜しみない拍手が送られた。

シルヴィア滝田がリングに上がった。

相手の酒井篤はウェルター級日本2位バリバリのMMAファイター。
この中量級で女子が男子ランカー相手に戦うということは大変なことだ。
いくらNLFSナンバー2の実力者シルヴィアであっても苦戦必至。

試合は総合ルール、5分3ラウンドで行われた。

1Rからいきなり打撃戦になった。
KG会空手出身、打撃得意のシルヴィアだが酒井のMMA流打撃も引けを取らない。女子特有のリズム、距離感に酒井は戸惑っていたが五分五分の攻防のまま第1ラウンド終了。

第2ラウンドは逆に寝技の攻防。
グラップリングでは酒井に一日乃長があり終始攻勢に出るがどうしても決め手がない。それだけシルヴィアのガードが巧みだったのだろう。しかし、酒井優勢のまま最終ラウンドへ。

最終ラウンドは打撃戦に行こうとするシルヴィアに組もうとする酒井。
残り時間が少なくなり焦ったシルヴィアが不用意に突っ込んだところへ酒井のストレートが炸裂した。
シルヴィアはダウンするもカウント9で立ち上がったが残り時間はない。

完敗であった。

これでNLFSは男子に5連敗。
通算で女子の26勝13敗となった。

それでもNOZOMIは心配していない。
選手も強くなるにつれ、強い男子選手を相手に選ぶのだからこうなってくるのは最初から分かっていた。

さあ! 次は私の番だわ。

ここらで連敗は止める。

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