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性の越境者マリア残酷物語。(11)ふたりだけの秘密?

それからも小林とマリアの関係は続いていた。あれから数ヶ月も経つというのに週末ともなると、どちらからともなく体を求め誘うのだった。今日のマリアの衣装はセーラー服の女子高生風。

「ほうら! そんなに〇ン〇勃たせちゃって、ここで見ててあげるから、自分でシコシコしてみなさい!」

情けないことに小林はマリアに見られながら恍惚の表情で自慰行為をしている。自分ではマゾヒズム的性向はないと言うが、ヒトには隠れた願望があるもの。マリアによってそれが表出したのかもしれない。
それを見ながらマリアは思う。このままでいいのかな?…って。これ以上関係がエスカレートすれば? 僕と小林はどうなってしまうのか? どこまでも堕ちてゆくふたり。

「ねぇ、俊也。もう、半年もこんな関係が続いているけど、このままでいいのかな?
セックスはしてるけど、わたしは男だから厳密には俊也は童貞なんだよね…」

「マリアはそんなこと考えていたのか?俺はマリアとこうしていられるだけで満足。男だろうが女だろうが、そんなことはどうだっていいよ。こんなに気持ちいいセックスしてるんだから童貞だって構わない」

本当だろうか?と、マリアは不安になる。
(僕と付き合ったばかりに本当の女との恋愛が出来なくなったら不憫だ。)

それに、マリアは小林とのセックスに満足しなくなっていた。更なる刺激を求めたいのだが彼は現状に満足しきっている。

マリアは思う。
小林は真面目で明るく友としては信頼しているけれど、セックスパートナーとしてはどうだろうか? いくら体を重ね合っても、不器用なのか?一向にその性技は上達しない。それに普段は饒舌なのにベッドの上では無口になってしまう。本当はもっともっと褒めてほしい。女心を分かっていない。
更なる刺激がほしいのだが、シャイな小林にこれ以上期待するのは酷だろう。

ふと、マリアの脳裏に駅前交番の浅野という若い巡査の顔が思い浮かんだ。
あれ以来マリアは浅野巡査の目を避けることなく、仕事帰りには必ず交番前を通るとその姿を探し求めるようになった。見えない時はとてもがっかりするのだ。
そして、会えば必ず笑顔で挨拶を交わす親しい間柄になったような気がする。

マリアはそんな浅野巡査と小林を心の中で比べてみた。マリアの170cm 54㎏に対して小林は171cm 68㎏の中肉中背。おそらく浅野巡査は180以上ありそうだし誰が見てもイケメンだ。マリアは浅野巡査に惹かれはじめているのを自覚していた。でも、彼は警察官であり自分は男なのだ。その思いは絶対に伝わることはないだろう。

「それじゃ、またな! マリア」

小林は満足そうに帰っていった。
小林は普通の真面目な男。今は初めての彼女?セフレ?に心を奪われているだけ。
いずれ、彼女でも出来れば去っていくだろう。マリアはいつもそう考えていた。


そんなある日曜のこと。
朝起きたのは9時頃になっていた。マリアは疲れていたので二度寝してしまう。
そんな微睡みの中、枕元にあるスマホの電話着信音がけたたましく鳴った。
朦朧とした意識の中でそれが誰であるか確かめもせずタップした。

「もしもし…」

「池田か?  俺だよ、オレ。野上だよ。去年末の飲み会以来だな?」

「野上か! 珍しいな。どうしたんだ?」

「秋葉原まで用があって来てるんだけど、出てこられないか? 何ならそっちまで行ってもいいぞ。ここから乗り換えなし一本。30分もかからない。昼メシ奢るよ」

時間を見たら10時半を過ぎていた。

「分かった。わざわざこっちまで来なくてもいいよ。12時半改札口を出たところで待ち合わそう。小林も誘ったのか?」

「今日は池田とサシで話したくてな。小林は誘ってない。じゃ、あとで…」

なんだろう? マリアは不審に思う。
大学時代の親しい池田、小林、和泉、野上の4人組だが、野上は普通の学生だった他の3人とは違うタイプ。口数は少ないが皮肉屋で本質を突くようなことをたまにズバッと言ってくる。影のあるタイプで女ともよく遊んでいたらしい。マリアは野上とサシで飲んだり食事をした記憶がない。

(去年末の飲み会の時、野上は僕に向かって片野千栄子に似ている。女装男子になれば似合うなんて言ってたな…。まさか!)

改札口を出ると、野上は既にそこで待っていた。駅近くの寿司レストランに入った。

「野上は吉祥寺だったよな? で、今日はなんでアキバに?僕に連絡なんて珍しいな」

「ちょっとな、買い物があってさ…」

しばらくはどうでもいい話が続いた。
マリアはこのまま無駄話で終わってほしいのたが、野上はそういう男ではない。
しばらく間があった後、野上はジッとマリアを見据え言った。

「なあ、池田。小林と何かあったのか?」

「え! ど、どうして?…」

「去年の飲み会で、小林と池田の様子がおかしく感じたからさ。君ら親友だろう?でも、あの時はいつもと違う感じがした」

「い、意味が分からないけど…」

この男は鋭い! 本質を突いてくる。
マリアはドキッとしたが、野上は何か言葉を探しているようだった。

「ズバリ言う。小林と池田は出来てるんじゃないのか? つまり、、男と女の関係というか、、同性愛の関係じゃないかと…」

「あはは! 何言ってるんだよ野上。僕も小林も女好きだっていつも言ってたろ?そんなことで呼び出したのなら帰るよ」

「うん。それならいいけど、、あの時、池田は小林のことを俊也と呼んだよな? それに小林が池田を見る目、池田が小林を見る目がよそよそしく感じた。まるで、ふたりだけの秘密を共有しているようにな。でも、俺の勘違いならごめん。謝るよ…」

野上に秘密を指摘されたマリア。
本当なら笑ってジョークで返せばいいのに真顔でムキになって反論してしまったのはまずかった。これでは逆に怪しまれてしまう。落ち着かねばならない。
野上も慌てふためくマリアを見て図星だったな?と、疑念が確信に変わった。

「なあ、野上。そう思っていても、何でわざわざ言いにきたんだ? いつもクールな野上らしくないよ。心に閉まっておけばいいのに、そんなお節介焼きだったかな?」

「そうだよな…。でも、友として放っておけなかった。こんなこと、お調子者の小林に言えば話をはぐらかすに決まってる。池田なら真剣に忠告を聞いてくれると思った」

「友として放っておけない? 忠告?」

「これは例え話だから怒るなよ。小林は片野千栄子が好きだった。池田はそんな片野千栄子に似ている。仮に池田が女装したなら小林は夢中になるだろう。以前、君らは一生の親友と言ってたよな? 親友が恋人になったら近い将来必ず破局はくる。そうなったら親友関係も終わりだ! 親友が大切なのか? 一時の快楽が大切なのか? まぁ、余計なお節介ではあるのだけど…」

それはマリアもずっと感じていたことで不安だったのだ。マリアは親友として小林を信頼し一生の大切な友と思っている。このまま肉体関係が続けばどうなるのか?その気持ちは鈍感?な小林には分からないだろう。それを思うと悲しくもある。

うつ向き考え込むマリア。
そうなったら白状したも同然だ。鋭い野上が気付かないはずがない。

「池田! 俺は国籍、性別、年齢、家柄なんてどうでもいいと考えている。そんなことで差別するなんてクソ!だと思う。だから男同士でまぐわうことだって構わないさ。でもな、それによって大切なものを失うのは悲しいと思うんだよな」

はっとしてマリアは目を上げた。いつもクールな野上にこんな一面があったのか?
野上はジッとマリアを見つめた。それから再び口を開いた。

「ここだけの話しだが驚かないでくれよ。俺が女遊びが激しいと思われているのは事実だが、両刀遣いでもあるんだ。つまりバイってことだな。男ともやったことがあるし、一時期付き合っていたニューハーフもいた。そんな世界も見てきたから雰囲気で分かるんだ。池田と小林はノンケではあるがふたりだけの秘め事があるんじゃないかってな。別にそうであっても俺は何とも思わないが、友として破滅の方向に行くのを黙って見ていられなかった。余計なお節介だったな? もう、これ以上のことは言わない。気を悪くしたならゴメン」

マリアは感動していた。
野上にこんな優しい一面があったなんて。そして、自ら「バイ」であることも告白してくれた。彼にならば話してもいい。

「そろそろ出ようか?」

「ちょっと待って! これを見て…」

マリアはスマホに収録してある女装写真を野上に見せた。野上は驚いた表情でそれを見るとマリアと見比べた。

「こ、これ、、 池田か?」

「恥ずかしいけどそうなんだ…」

それから、マリアは小林とのことを洗いざらい話した。肉体関係があることも話したが、それがSMチックにまでエスカレートしていることはさすがに言えない。

「よく打ち明けてくれた。お互いゲイでなくても片方が女装すれば関係は成り立つ。身近に片野千栄子そっくりなマリアという美しい女がいたんじゃ小林が夢中になるのも頷ける。あいつは一途な男だから危険な関係になる可能性がある。情は挟まない方がいい。いずれ、普通の親友関係に戻すべきだな。それにしても池田は美しいな。俺も一度お願いしたい。ハハハ!」

小林との「ふたりだけの秘密」を野上に話してしまったことは複雑だったが、アドバイスを受けたことは良かったと思う。

野上は帰るということで駅に向かったが、マリアは秋葉原に来たのは久しぶり。その辺を散策してから帰ろうと思った。

話は更なる展開に入ります。

つづく






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