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【短編小説】世界一幸せかな

 本日は私たちのためにお越しいただき、誠にありがとうございます。無事本日、式を挙げることができました。こうして2人で夫婦になれたこと、これもひとえに皆様のおかげです。ささやかな席ですが、お開きまでどうぞごゆっくりお過ごしください。

 挨拶を済ますと、司会の人が新郎新婦の紹介をしてくれる。自分の名前の前に、新婦、という代名詞がつき、苗字が呼ばれなかったことに、やっと、実感が湧く。
「やっと夫婦になれたね。」
そう言うと、キラッキラの笑顔でこっちを向いてくれる。
「かなちゃん、すっごく綺麗だよ。」
「けいくんも、いつもカッコいいけど今日はもっとカッコいい!」
「良い結婚式にしようね」
「うん。人生で1番の思い出にしたい!」

 こうしてけいくんと式を挙げられること、信じられないくらい嬉しい。私は世界で1番幸せ者だ。
「かなちゃん」
「ん?なあに」
「僕、かなちゃんと一緒になれて世界一幸せ者だ。」
こうして目を見て言葉にしてくれる、けいくんのことが私は大好きだ。
「私も今、おんなじこと考えてた。私も世界一幸せ!」
「そっか!じゃあこれからもっと幸せにしてあげるからね!」

 ただただ幸せに溢れた私たちの結婚式は、何にはばかられることもなく無事、閉宴を迎えた。これを着るために今日まで自分磨きに精進したため、ドレスを脱ぐのは惜しかったが、すっと肩の荷が降りたような気がした。式場を後にして、2人で一緒の家に帰る。

 自宅に着くと、先刻までの非日常から一気に現実に引き戻された気がした。でも式の写真を見返したりして、余韻に浸った。あああ、幸せ。全部叶った。

 あ、あのドラマ始まるから早く準備しなきゃ。パパッと名も無き家事をこなし、テレビをつけると、いつものようにけいくんが映った。ちゃんと録画もしてるもんね。
「待てよ、ゆみ!俺、お前のこと、好きなんだ‼︎」
ブチッ。

 予告では見てたけど、今日見るもんじゃなかった。また式の写真を見返す。どの写真を見ても、けいくんは同じ表情、同じポーズをしていて、私だけ浮かれた馬鹿な女みたいに見えた。

 お金かけてこんなことして、なにになるんだっけ。けいくんに、どうして欲しかったんだっけ。結婚してほしい?キスして欲しい?いや、烏滸がましい。

 今日はけいくんの握手会。けいくんと直接会って目を見て話すことができる、極稀な機会だ。自分磨きして、けいくんにしてほしいこと、ちゃんと言おう。

ねえ、好きって言って。


作者 : 雪田

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