【小説】つれづれ草(2)

 霊感。幻覚。妄想。夢落ち。定期的な揺れを感じながら景色と車窓に映る自分と一緒に背後のものを眺めた。結局、口の端の汚れは綺麗に落とし切れていなかったようで、みすぼらしい。
 鞄を抱えた指でひっかいていると女子高生の怪訝な視線とかちあった気がして、ながれる電線にあわせて目線を上下させた。ゆるやかに下がり、ぴょんと跳ね上がる。

「おはようございまーす。」
「おはようございます。」
「おはようございます!」
「はよーす。」
「・・・おはようございます。」
 人であふれた賑やかなフロアを出来るだけ静かにとおり抜け自席の椅子に手をかけ、パソコンを開いた。
「あれ、お前、今日休みだろ?」
「え?」
 電源ボタンを押した。
「え?って、振休。とるんだろ?昨日、言ってたじゃん。」
 気さくな同僚は朝から爽やかにほほ笑んだ。新緑。新茶。若葉。葉っぱ。葉っぱは緑。緑は。
「カエル・・・。」
共用で使用する機器の電源をいれながら、振り返りざま同僚の背後から目を離せなくなった。
「カ・・エル。」
「ははっ、おう。帰れ、帰れ。係長にみつかったらそのまま仕事だぞ。」
同僚はちらりと自分の背後に視線をむけながら、笑う。ずいぶん大きなカエルだ。アマガエルだろうか。目がクリクリと動いた。
「あ、係長。おはようございまーす。……ほら、パソコンは片づけとくから。」
前を横切る同僚に少しよろけながら、その背後をついていくカエルを見つめた。熱視線。カエルは気づかないようである。


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