【小説】つれづれ草(4)

 やっとの思いで、駅前の噴水のふちに腰かけた。真夏はとおり過ぎてしまったらしく、水面は静かで、枯れ葉が浮かんでいた。朝の通勤ラッシュもとおり過ぎたようで、人通りもまばらである。何かを期待した鳩が、こちらを見上げながら近づいては遠ざかる、を繰り返している。
「・・・・・。」
 木陰にかくれた喫煙者の煙が目の前にただよってきたので、そっと、袖で鼻を覆った。喫煙者の近くには何も居ないようだった。
 この鳩は、本当に鳩なのだろうか。
「・・・・・・。」
 本当は、悪の秘密結社の下っ端とか怪しいお助けキャラの使い魔とかで、いまに、喋りはじめるかもしれない。
 こちらに敵意はないことを何らかの献上品でしめしたいところだが、あいにくのところ、ポケットにはビスケットの一つも入っていない。
「・・・・・・。」
 頭と足が連動した独特なステップを踏み、しきりにこちらを振り返りながら、遠ざかる鳩。コンビニで食料を調達して部屋に帰って寝よう。しっかり寝れば、このばかばかしく賑やかな視界が静かになるはずだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?