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おじいちゃんと孫(この日の為に…)
一時退院最終日。
この日は息子の誕生日で、この日のお祝いの為に、看護師さん達の協力もあって一時退院できた。
まさか、ちゃんと1週間外に居られるとは思いもよらず、1日1日が喜びだった。
父は昼間知人が来るからと言っていたので、夕方、シャワーを浴びるのとお誕生日会を一緒にやる事になっていた。
とにかく、誕生日らしいメニューを作る事になって、主役の息子にも手伝ってもらって、父の好きなものもたくさん用意した。
穴子の天ぷらはさすがに無理だったが、穴子の照り焼きがあったのでそれで我慢してもらう事にした。
夕方、父を迎えに行きながら、再入院の準備をする事にした。
「あぁ、お父さん、ちゃんと家からデなかったからな。家の中から、スマホで話して案内したから。」
ちゃんと私の言う事を守ってくれた。そして、誰が来たかも話してくれた。
仕事関係の人がわざわざ休みの日に来てくれたらしい。
差し入れのフルーツが部屋の隅に置かれていた。
再入院で、必要なものと要らないものと、薬と、鞄の中を整理しているとノートが出てきた。それは、入院当初に私が買ったノートで、パラパラめくると最初の方は読める文字が、だんだん歪になっていって、途中で終わっていた。
「これ外してくれ。」
右手にはほとんど力が入らなくなっていて、腕時計を外すのも難しくなっていた。
そして我が家に連れて行き、息子の誕生日会が始まった。
いつもの誕生日会と変わらない雰囲気で。
おしゃべりして、好きなもの食べて、ケーキが出てきてロウソクの火を消す。
19歳。
「20歳になったら、一緒に酒飲もうな。」
2人は約束をしていた。
叶うのだろうか。私は2人の写真を撮った。
その夜、寝ようとしていた時、父から電話が来た。
「背中のチューブの感じが変なんだ。来てみてくれるか?外れてはないと思うんだけど。」
救急車か?
焦りながらも、父の所に急いだ。
背中を見ると、チューブを固定していたテープが外れかかっているだけで、大事には至っていなかった。
訪問看護の人に任せていたけれど、やり方は教わっていたから、1度剥がして付け直した。
「これで大丈夫。じゃ明日ね。お休み。」
そう言って、私は家に帰った。
まだ、終わってはいないと思った。
明日が来て、ちゃんと病院に連れて行くまでが私の使命。
ただ、この1週間で、私は出来る精一杯。父との時間を過ごせたと思った。