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おじいちゃんと孫(アクシデントと決意)
一時退院6日目(土曜日)は、大好きな穴子天ぷらを食べて、その後床屋に行く予定だった。
しかし、朝訪問看護の人が背中のチューブの消毒をしてくれた時、固定している糸が外れていると言い出した。(背中に直接縫い付けてチューブを固定している。)
看護師さんが病院に連絡してくれた。
今日は土曜日。
「救急外来で診てくれるって話になったから、行けますか?」
スマホを一旦耳から外して私に聞いてくる。
…今日の予定が。と思ったが、何かあれば関わってくれてる人達に迷惑が掛かると思って、「今から行きます。」そう言った。
それから車を走らせる。
土曜日の午前中の病院は駐車場が貸切になっていた。
救急外来は何処?と、入口で守衛さんに聞くと、中から車椅子を持って受付の人が出てきてくれた。
中には男性1人、女性1人。付き添いだろうか、話をしながら待合室にいた。
すぐに呼ばれて、父に付いて行こうとしたが、「外でお待ち下さい。」と言われて、追い出されてしまった。
少しして診察室から出てくると、料金を払って帰って大丈夫ですと言われた。
ん?糸は?どうしたの?説明をして!
と思ったが、看護師さんは居なくなってしまった。
仕方なく父に「どうだったの?」と聞いた。
「見てすぐ外れてるって言って、糸縫い直したみたいだぞ。何だか痛いな。」
やはり来て良かったのだ。それに、明日が息子の誕生日で、夜に誕生日会の予定。最終日。
このまま戻れと言われなかっただけ良かった。
しかし、床屋の予約が1時なのに、既に12時。もちろん、お昼の予定は間に合わない。「今日はこのまま帰る?疲れたでしょ?」
と、聞くと。
「いや、床屋は行く。このまま行けば間に合うだろう。」
また入院生活が始まる。2ヶ月分白髪も目立っていたし、綺麗にして気持ち良くまた戻りたいと思ったのか。
それとも、ずっと世話になっていた床屋の主人と会いたかったのかもしれない。
「お昼食べてる時間ないから、またコンビニになっちゃうけど、いい?」
せっかくだから美味しい物を食べさせたいのに、病院に行くと必ずコンビニになってしまうし、本当なら穴子を…と考えると申し訳なくなった。
「構わないよ。アンパンが食べたいな。」
父は私の気持ちを察してくれたから、途中で立ち寄ったコンビニで買ったアンパンを美味しそうに食べていた。
床屋に到着すると、痩せた父の姿を見て床屋の主人が驚いていた。
念の為にと、私の連絡先を書いて主人に渡した。
せっかくだから、ゆっくり話をして欲しかったから、私は家に帰ろうと思った。
そして、話をする時間を作るようにしたくて、息子に迎えに行ってもらう事にした。
じいちゃんを迎えに行って、送り届けて家に帰ってきた息子が少し嬉しそうだった。
「じいちゃん。また病院戻ったら、抗がん剤やってみるって言ってた。まだ諦めないって。」
そう、嬉しそうに話をした。
延命もしないし、抗がん剤もやらないと入院する前から父は決めていた。
肺の治療が終わって、チューブが取れれば退院して、自分で後片付けをしながら、家で最後を迎えるつもりだったと思う。
余命宣告は、何もしなければ2、3ヶ月。既に1ヶ月は経過した。抗がん剤が開始出来れば、もう少し伸びるかもしれない。
病院から出てきて、色々な人と会って、話をしているうちに、【もっと生きたい】という気持ちが出てきたのだろう。
夕飯を届けに行った時には私には何も言わなかったし、聞かなかった。
息子だけに話たかったのだろうと思った。
「明日は夜、誕生日会だから。それまではゆっくりしてて。」
「昼間、知り合いが来る事になってるから。」
「来るのは大丈夫だけど、1人で外に出て案内とかしちゃダメだからね。」
「分かったよ。」
誰が来るかは聞かなかったし、実はプライベートな事はほとんど知らない。
だから、彼女!?登場で私もおばさん達も驚いたた訳だが…。
それよりも、1週間完璧に予定を達成出来た訳では無いが、約束通り息子の誕生日会まで外に居られた事が嬉しかった。
だからこそ、1人の時に何も無い事を強く願うのだった。