おじいちゃんと孫(再入院と鳴り響くスマホ)
奇跡みたいな一時退院1週間を過ごせた。
これから治療を頑張る、という父の決心に私は別の場所で頑張る事にした。
再入院して約1週間後、父から電話が来た。
「チューブ、まだ取れなくなっちゃったんだよ。」(咳き込みながら話をしている。)
あまりに辛そうなので、事情を聞こうにも話が上手く聞き取れない。
担当医から何をするかの説明もなかったのだ。そうすると、翌日電話が鳴った。
担当医からの電話だった。
「チューブを1度閉じてみて、肺が機能してくれれば良かったのですが、廃液がもう片方の肺の方まで広がってしまい、肺炎をおこしている状態です。落ち着いたら、もう一度挑戦しようと思ってます。」
…肺炎?あの辛そうな電話は肺炎をおこしていたのか。
私は父に電話をしてみた。
「どう?肺炎だったんだって?」
「え?そうだったのか?今はまた大きな機械に繋がれて、ベットの周り以外動くの禁止されちゃったよ。」
咳き込みは無くなっていたし、はっきり話をしていたが、肺炎だった事を知らないというのに驚いた。
「じゃ、体辛いだろうから、落ち着いたら、また連絡してね。」
「分かったよ。」
そう言って、電話を切った。
そして数日後、また電話が掛かってきた。
今度は看護師さんからだった。
「今日の朝からからお父さん、突然立てなくなってしまいまして。個室に移動して、様子を見よう思います。詳しく話は先生からあると思いますので。」
は?肺炎なのになんで立てなくなるの?
「追加で書いて欲しい書類があるので、次、着替え取りにこられた時にお願いしたいのですが。」
状況が読み取れないまま、数日後に行くと言った。
「話せそうなら、電話をして。と、父に言って下さい。」
落ち着いているのか、動揺しているのか。
どちらとも分からないまま、それだけ言って電話を切った。
翌日電話が鳴る。父からだ。
「もしもし。」
恐る恐る声を出した。
「あぁ、いやなぁ。お父さん、立てなくなっちゃって、力入らなくなっちゃったんだよ。」
父の声が弱々しくなっていた。
「目もちょうろくじゃなくて、スマホ使えないから今、看護師さんに頼んで電話してるんだけど。」
「それは大変だね。それなのに連絡してくれたんだね。」
泣きそうな自分に蓋をした。
「多分、電話もメールも出来ないだろうから。他の奴等にも、出られないって伝えておいてくれないか。」
少し前までは仕事の事で普通にやり取りをしていた訳だから、周囲の人達にどう説明しようか考えていた。
「分かったよ。上手いこと言っておくから、少しゆっくりしなね。」
これはもう本当の覚悟が必要なのか。それとも、まだ望みを捨てないで待つべきなのか。
とりあえず、周囲の人達にはまた肺炎になって治療に専念している。と、伝えて、しばらく連絡は控えて欲しいと言った。
息子も近くにいて、どうしたのか?と聞いてくる。
ざっくりと説明はしたが、息子は信じていた。
「じいちゃんは最強だよ。きっと大丈夫。」
「そうだよね!」
後ろ向きな考えは息子の前では言いたくなかった。
そして、また数日後。
担当医からの電話が来た。
娘がちょうど登校日で、学校に送り届けた後だった。
「今の状況についてお話したいのですが、午後からお時間ありますか?できれば、ご親族の方も。」
悪い知らせだ。
娘には心配させたくなかったから、じいちゃんが突然着替えが必要になって、迎えが遅くなるかもしれないと連絡を入れた。
学校で待たせてもらえるから、ママが来るまで待つ。と返事が来たが、遅くなる事を見越して旦那にも連絡を入れておいた。
そして、兄にも連絡をした。
来れないなら私1人で大丈夫と言ったが、行くと言ってくれたので、少しホッとした。
私は父の家に行って、後日持って行く予定だった洗濯物をまとめて、病院へと急いだ。
梅雨が吹き飛んで、突然日差しが眩しくなっていた。