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おじいちゃんと孫(また会えるよね?)

1週間の期限付き、かなり厳しい条件付きであったが一時退院が出来た。

そして、何かあれば即入院も免れて、完璧ではないが孫と家族と仕事仲間と時間を共にした父は、凛々しくなっていた。

病院に向かう途中。

「悪いが、コーラ買ってきてくれるか?炭酸が飲みたいんだよ。」

私は衝撃を受けた。
医者から食べ物や飲み物の制限は無かったけれど、グリーンダカラが好きと言っていたからそればかり買って飲ませていたのだ。

「もしかして、ずっと飲みたかった?言ってくれれば買ってきたのに。」

「いや、ちょっとだけ飲みたいだけだから。」

やっぱり私に気を使っていたのだと思ってしまった。使わせてしまった。

頑固者の父ではあるが、この1週間、わがままを言うような事は無かった。

さらに言えば末期癌。
あちこち転移もあって、痛い所もあるだろうに、痛み止めを飲んでいるとは言え、愚痴もこぼさず、穏やかに周囲の人と接していた。

強い父の姿をまざまざと見せられた。

そして、コンビニでコーラを買って、ゴクリと飲む。豪快なゲップをして、「はぁ~。」と満足気だ。

そして、高速道路に乗り再び病院へ。

高速をもうすぐ降りるという所で父が静かに話始めた。

「お父さん。抗がん剤やろうと思うんだ。もう少し頑張ってみようと思ってる。お前に迷惑掛けるかもしれないけど。」

前しか向けない。
父の顔を見たかった。見て話をしたかった。

「分かったよ。確かに抗がん剤は辛いと思う。でも、お父さん事待ってる人が居るんだよ。息子も。仕事場の人達も。私も。」

泣くな!と心に言い聞かせても、涙は流れてきて、100キロの速度の世界が少し歪んだ。

「待ってるから、もう少し頑張ってきて。」

「分かったよ。」

そして高速道路を降りて、病院までの道のりは何を話していたかは覚えていない。

病院に到着すると、玄関横付けで車椅子確保からの、移動と荷物を一旦置いて、車を駐車場へ。
慣れた動作になってしまった。

入院は予め決まっていたから、手続きも簡単で看護師さんが来るまで待機していた。

頭には、かつて息子と色違いのおそろいで買った帽子を被っていた。

「次はこの前買った帽子使えるね。」

梅雨の割に涼しく、雨の少ない1週間だった。もうすぐ夏が来る。買った帽子は夏の空の様な青い色の帽子だった。

名前が呼ばれて、入り口でお別れだ。

私は父の手を握った。
「頑張ってきてね。また来るからね。」
看護師さんが車椅子を持って病棟へ歩いていく。
何となく、入院は嫌なんだと思ったのは、父の姿が何となく小さく見えたから。

1週間がちゃんと過ごせたと安堵すると同時に、もしかしたら、これで最後かもしれないと思いながら、見えなくなるまで父の姿を目で追っていた。

それでも、体だけは丈夫で体力自慢の父の事だから、きっと戻って来るに違いない!

そう言い聞かせて、少しでも安心して帰って来れる様に、仕事をしなきゃ!父の会社を守っておかなきゃ。と、気合いをいれるのだった。

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