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憂うつな人生の終幕もアルモドバルなら色鮮やか「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」第97回アカデミー賞期待の作品紹介Vo. 18

AWARDS PROFILE Vol. 18

ザ・ルーム・ネクスト・ドア

各映画サイト評価

Rotten Tomatoes: 89%(現時点)
Metacritic: 69(現時点)
IMDb: 7.0(現時点)
Letterboxd: 3.5(現時点)

あらすじ

 イングリッドとマーサはかつて同じ雑誌社の同僚にして親友だった。それから何年もの月日がたち、小説家、従軍記者と二人はそれぞれの道を歩んでいた。長いこと音信不通だった二人は奇妙にして究極の状況で再会を果たす…。

マーサ(ティルダ・スウィントン)は生死にかかわる選択をする。

監督・キャスト・注目ポイント

 スペインが誇るペドロ・アルモドバルが40年以上に渡る映画人生で初めて英語長編作品を手掛ける。「ヒューマン・ボイス」「ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ」と直近の短編二作品で英語の作品を発表し、新たな表現を手に入れた彼が今回描くのは二人の女性の友情と生と死についての物語だ。2020年に発表されたシーグリッド・ヌネス著の「What Are You Going Through」を基にしている。アルモドバル初の英語作品に集まったキャストは豪華の一言。イングリッド役にはジュリアン・ムーア、マーサ役にはティルダ・スウィントンが配され、静かに終わりが近づく美しい友情を体現する。

イングリッド(ジュリアン・ムーア)はマーサの決断に困惑しながらも、寄り添うことを決意する。

他にもジョン・タトゥーロアレッサンドロ・ニヴォラといったキャストが出演している。音楽は監督とのタッグで名スコア連発のアルベルト・イグレシアスが担当。また、特徴的な赤をはじめとする撮影や美術、衣装の色使いが今作でも発揮されるのか期待だ。ヴェネチア国際映画祭でプレミア上映されると、情熱的な支持を獲得し、最高賞の金獅子賞に選ばれた。

評価

 舞台、英語、キャストとこれまでとは異なる原材料を用いながらもアルモドバルは真っ新のキャンバスを自分のカラーに染めていく。人生の終りに直面する二人の女性の心の交流を通じて、生と死、年を重ねること、芸術について熟考する。

会話劇ではあるが、決して哲学一辺倒にならないのがアルモドバルだ。ユーモアとメロドラマがその中で渦を作り、憂うつな死のムードが漂う空気から生きることの喜びを抽出する。その詩的な憂うつの表現にカタルシスさえ感じることだろう。そんな作品を更なる高みに連れて行くのは主人公たちを演じるジュリアン・ムーアとティルダ・スウィントンだ。

彼女たちがキャラクターに尊厳と人間性、共感をもたらし、人の死が持つ深遠さを探求する。撮影、音楽、セットデザインは二つの魂の彷徨うスペースを形作り、作品を静かに盛り上げる。「ペイン・アンド・グローリー」「パラレル・マザーズ」と近年、より作品の重みが増しているアルモドバルによる鮮やかなカラーに彩られた死に思わず息を呑むことだろう。

2025年1月31日に公開予定。

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