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第96回アカデミー賞期待の作品紹介No. 23「AIR/エア」

AWARDS PROFILE Vol. 23

AIR/エア

RT: 93%
MC: 73
IMDb: 7.4

 1984年、業績不振に苦しんでいたナイキは、バスケシューズ部門の立て直しのために新たな広告塔を探していた。有望な選手発掘を任されたベテランスカウトマンのソニー・バッカロが、目を付けたのはドラフト3位の青年マイケル・ジョーダンだった…。

 あらゆる面でスポーツの歴史を変えたシューズ「エア・ジョーダン」の誕生秘話をドラマチックに映画化した今作。監督は「アルゴ」でオスカー作品賞に輝いたベン・アフレック。ナイキCEOのフィル・ナイト役で出演も兼ねている。主人公の中年スカウトマンのソニー・バッカロを演じるのは、ハリウッドスターのマット・デイモン。アフレックとデイモンの盟友コンビの再タッグに小躍りする。他キャストもジェイソン・ベイトマン、ヴィオラ・デイヴィス、クリス・メッシーナ、クリス・タッカー、マーロン・ウェイアンズ、マシュー・マーなど才能あふれる俳優陣が揃った。本作はハリウッドが得意とする、爽やかなサクセスストーリーのど真ん中を突き進む秀作となっている。靴の開発とジョーダンとの契約を勝ち取るまでの道のりという、文字に起こすと面白みに欠ける気配があるが、この作品は退屈さとは無縁だ。「エア・ジョーダン」開発の逸話が気持ちいいスピードで落とし込まれ、開発者たちの規則と前例を破ろうとギリギリを攻める技術力と努力にニンマリする。その一方で、技術云々では解決できないのがジョーダンとの契約だ。何でも本人がナイキに興味がないというゼロのところからバッカロはスタートしなくてはならない。キーパーソンとなるのはマイケルの母デロレスだ。彼女の信頼を勝ち取ってこそ契約成立への道が開ける。そこでは人の心と心の繋がりが大事にされる。ジョーダンがはかなくては靴はただの靴なのだ。この契約がナイキの一発逆転へと繋がり、スポーツ業界の慣習すらも変えてしまう。エンドクレジットのころにはガッツポーズしたくなる映画に仕上がっている。キャストの素晴らしさは言うまでもない。ベイトマンが中年の哀愁を漂わせると、タッカーが小気味いい存在でかき回し、メッシーナが電話越しに怒り狂って吠えれば、マーは一歩引いた存在で笑いを誘う。デイヴィスが放つ光は映画の核となる良心へと差し込む。そしてデイモンとアフレックの役を超えた信頼が、映画の厚みを最大限に増幅させる。84年の時代を反映させた曲選びも素晴らしい。成熟し切った中年たちが輝く、遅すぎるサクセスストーリーなんてないのだ。プライムビデオで配信中。

心と心の繋がり。長後の都知事に欠けていることです

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